天使の羽
「帰らなきゃ……」
“連れて行く事はできないよ”と少年が首を振った。
「また、会いに来てくれる?」
「君が逝く時に、必ず……」
二人を包んでいた光が少年の背で白い大きな翼に変わる。
「約束ね」
「うん。約束」
少年が少女の額にそっとくちづけ、羽を大きく広げた。
「……タカヤス……」
少年に呼ばれて、タカヤスが目を上げる。
「ミツキを頼むね」
自分に似た笑顔に頷くタカヤス。
その顔に安心したかのように微笑むと、音も無く、少年は羽ばたいた。飛び立つと同時に姿が消えていく。
その場から動く事も出来ずに、タカヤスはただ、空を見上げていた。
「……タカヤス?」
初めて聞く声に振り返ると、自分を真っ直ぐに見つめる母。
「俺、今、父さんに会ったよ」
頷く母。心が戻って来た母に、タカヤスが笑った。
「寒いね。戻ろうか?」
母を車椅子に座らせ、ホスピスの中へと戻る。
「あのさ……」
二十年分の想い出は、これから作り直せばいい。
母の指に光る指輪を見て、タカヤスはひとり頷いた。
明日、彼女を連れて来よう……。
……夜空に一番星が輝き始めた……。