FIND OUT
外は雨が降っている。
雨のせいか、時間のせいか、外は真っ暗だ。
しきりに降り注ぐ雨の中を一台のバスが走っている。
―――今日はずいぶん遅くなってしまったなぁ・・・
そのバスの中で、播磨 瑠萎(はりま るい)はボーっと外を眺めていた。
バスは公園の前を通りかかった。
「ん?」
公園の様子がおかしい。
樹木の間から覗く、淡い青い光。
目を凝らすと、何かが燃えているようだ。
「・・・・え?」
青い光の正体は、“青い焔”だった。
―――人が・・・・燃えてる!?
瑠萎はその異様な光景に釘付けになっている。
炎に囲まれて、少年が一人立っている。
その容姿から、歳は瑠萎と同じくらいだろう。
すると少年がこちらを向いた。
一瞬、瑠萎と少年の目が合った。
白銀色の髪に紅い眼、子供とは思えないような鋭い眼差しだが、どこか悲しげな雰囲気を纏っていた。
そんな少年の周りを囲む焔は、
熱くて冷たくて
激しくて静かで
残酷で優しげな
そんな“青い焔”だった―――・・
◇
―翌日―
春も真っ只中、桜の花も満開だ。
瑠萎は眠い目をこすりながら、学校に続く通学路を歩いていた。
すると突然、背中を押された。
瑠萎は、よろめきながらも後ろを振り向くと、青年が一人立っていた。
「もぉー、上総(かずさ)先輩!やめて下さいよー」
“上総先輩”と呼ばれた男が笑う。
もう暖かくなりつつあるというのに、上総の首にはマフラーが巻かれている。
「だって、おもろいねんもん。しゃーないやん?」
「仕方なくないですっ!やめて下さい!」
そう言って、少し怒った風にしてみるが、上総は尚も笑っている。
上総は、瑠萎の部活の先輩で、二ヶ月前に引っ越してきたばかりである。
後輩によくちょっかいを出したり、いつも笑顔を絶やさない事で有名(?)だ。
噂では、けっこうモテるとか・・・。
ケラケラと笑う上総を放置し、瑠萎は先に歩き出した。
「おーい、播磨。そっちは学校やないぞ。」
学校とは逆の方に向かっている瑠萎に、上総が呼びかける。
その声に、瑠萎は振り返り、答える。
「知ってますよー」
「どこいくねん」
「・・・殺人現場です」
そう言って、瑠萎は再び歩き出した。
遠くなっていく背中を、上総は静かに見ていた。
◇
公園の前には、たくさん人だかりが出来ていた。
―――すごいヤジ馬の数・・・
―――やっぱり、昨夜(ゆうべ)のあれは幻なんかじゃなかったんだ
―――犯人は、もう捕まったのかな?
瑠萎は昨夜(ゆうべ)の少年を思い出す。
―――・・・・あの犯人らしき人物・・・・、私と同じくらいの歳に見えたけど・・・
その時、驚きの一言が聞こえた。
「よかったわねぇ、ただのボヤで」
―――えっ!?
「誰一人ケガもせずすんだのが幸いね」
「でも怖いわ・・・・。一ヶ月前には、この公園でホームレスが殺されたばかりなのに・・・・」
「犯人もまだ捕まってないしねぇ」
―――どういう事!?
瑠萎が周りにいた人に聞く。
「ボヤ・・・・ではないですよね!?殺人事件では!?」
いきなり聞かれた人は、驚きながらも答えた。
「えっ?警察が調べてボヤだって・・・・・」
―――そんな・・・・
「ちょっと通して下さい!!」
瑠萎は、ヤジ馬を掻き分けて公園の中に入った。
―――死体どころか、血痕ひとつない!?
そこには、コゲ跡と煙が少し昇っているだけだ。
昨夜の光景と重なる――。
―――・・・だって昨日は確かに・・・
「どういう事ですか!?」
そのままでは納得出来ず、その場にいた警官に歩み寄る。
「私は確かに見ました・・・たくさんの死体!!燃える青い炎!!犯人は男です。私と同じ歳くらいで、制服らしきものを着ていました!!」
瑠萎が必死に説明するも、警官は優しく微笑んで答えた。
「お嬢さん・・・、今回のは間違いなくボヤだよ。安心して」
もう一人の警官が代わって説明する。
「この公園は前々から不良の溜まり場になってるし、一ヶ月前にホームレス殺人も起こってるから、警察も注意して調べてるよ」
―――そんな・・・、確かにこの眼で見たのに!?
「殺人があった証拠なんて一つもなかった」
―――・・・・なんで――・・
◇
キーンコーンカーンコーン・・
朝はたくさんの生徒が登校してきている。
「はぁ・・・・」
瑠萎はため息をつきながらも、トボトボと教室に向かっていた。
すると、
「瑠萎ー!」
と、向こうから女子が一人が走ってきた。
「・・・愛生(あい)」
「おはよー」
愛生が笑顔で、瑠萎に挨拶した。
「・・ぉはよぅ・・・・」
瑠萎は、元気のない声で挨拶を返した。
「どーしたの?そのローテンション・・・」
「まぁ・・・、ちょっとね・・・・」
「?」
そんな事をはなしているうちに、教室に着いた。
「何があったか知らないけどっ、元気だしなよ!せっかく、今日は面白い事があるのに」
何故か、愛生のテンションが異様に高い。
「面白い事・・・?」
その時、教室のドアが開いた。
担任の女教師(せんせい)が入ってきた。
「さぁ、みんな!席に着いてー!!」
ざわめく教室に、先生の声が響く。
「どうぞ、入って」
「キタ☆」
愛生が瑠萎に囁く。
「はい・・・」
先生に促され、一人の男子が入ってきた。転校生のようだ。
―――愛生が言ってた“面白い事”って、転校生(コレ)の事?
瑠萎は、さほど興味もなさそうに頬杖をついて見ている。
転校生が教卓の前まで来て、自己紹介をする。
「白銀(しろがね) 燐(りん)です。よろしくお願いします」
お決まりの言葉を述べる転校生だが、表情には何の色も出ていない。
まさに、無表情という言葉がふさわしい表情だ。
もうだいぶ暖かくなってきているというのに、転校生は制服のシャツの上から、薄手のフード付きのコートを羽織っている。
瑠萎は、そんな転校生を見て目を見開いた。
―――え・・・
思わず、手に持っていた教科書を落としてしまった。
転校生から目を逸らして、下を向く。
先生が説明を始めた。
「白銀君は、海外で会社を経営されているお父さんの都合で、入学が一ヶ月ほど遅れました。今日から同じクラスメイトです。わからないことなど教えてあげてね」
「なんか!!思ったよりイイ男じゃん」
愛生がはしゃいでいる。
教室もざわめきはじめた。
「・・・・瑠萎?」
瑠萎の異変に気がついた愛生が名前を呼ぶが、瑠萎の耳には届いていないようだ。
―――間違いない。昨夜の男だ!!
昨夜の光景が脳裏をよぎる。
それは、間違いなくあの少年だった。
―――なんでだ!?どういう事だ!?
―――・・・・なぜ、こいつがここに!?
―――・・・・やっぱり、昨夜のは見間違いなんかじゃ・・・・
スッ
瑠萎の目の前に、先ほど落とした教科書が差し出された。転校生、もとい燐だった。
「落ちてましたよ?」
燐は、さっきと同じ無表情だ。
瑠萎は睨むように燐を見た。
二人の間に沈黙が続く。
「・・・・何?何?あの二人見つめ合っちゃってるけど・・・!?」
「え?どうしちゃったの、播磨さん・・・・」
教室がざわつく。
「・・・・ありがとう・・・」
瑠萎が、やっと教科書を受け取った。
「どういたしまして」
まさに棒読みという言葉がピッタリな喋り方だ。