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ふりーどりひ
ふりーどりひ
novelistID. 17102
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ぼくはかれを知らない

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第二項 まるで大きな家には


北風はもうすっかりいなくなっていた。いつもは脱ぎ捨てるコウトだけをぼくに残して。
「クマはどこに住んでいるのだろうか。」誰となく話しかけながら、ぼくはまたひとりだったのである。
 とにかく歩こう、そう思い北風が来たほうへと歩き始める。
どこまでも続きそうな草原がぼくを喰らって喰らって、堕ちる天はまだそこにいたままだ。
 少しずつ、草の丈が伸びてきた。もっと遠くまで行ったらぼくはいなくなってしまうだろうな、そしたらひとりじゃなくなるのかな。そんなことを考えていたような気がする。
 ずんずん、足音は土じゃない土たちに響き渡り、辺りに散らばり消えていく。
やっぱり草原は静かであるのだ。
 そして、終には草がぼくを食べ終えた。
ゆきゆきて、開けた先にはひとつのまるで大きな家があった。その佇まいはまるで、取り残された子供のようで、ぼくは困惑した。
 とにかく扉の前まで行ったはいいが、大きすぎて呼び鈴も鳴らせない。
それはそれは大きい扉だった。ぼくの前に立ち上がるそれは、先ほどまでぼくが背負っていた天さえも隠してしまって、いまはもうどこかにいったのだろうか。壊れる点達は消え失せて目の前には静けさを孕んだ扉だけ。
 とにかく、戸を叩いてみるか。もしかしたら誰かがいるかもしれないな、でもいたとしても、とっても大きくてぼくに気がつかず踏みつぶされやしないだろうか。
「ごめんくださいな。」とんとん、と戸に触れる。戸はとてもやわらかかった。ぼくはびっくりして思わず手を引いてしまうほどだ。どうして音がするのにやわらかいのか、不思議な感覚がぼくをとりまいた。もう一度叩いてみようか。そう思うと、がちゃりという音がした。そのとっても大きな扉がぼくひとりぶんくらいの隙間を開けた。
「どうも、こんにちは。あなたはどちらさん?」中からぼくくらいの少女が出てきた。
彼女の青い瞳は先ほどまで見ていた点達を思い起こされるようだった。そうか、点達はこんなところにいたのか。きっともう壊れ疲れたのだろう。ぼくも許すから、点達は。
「こんにちは。ぼくは草原から来たものです。」
「草原から?ずいぶんと歩いたでしょう。うちに寄っていって。」
「ありがとう、じゃあお邪魔するね。」
扉は片手で閉められるほどに軽かった。大きいのに不思議だ。もしかしたらアイシスで、できているのかもしれないな。前にどこかで聞いたことがある。やわらかくて軽い、音は硬い。それはある動物の毛で作られる板のようなものだそうだ。
 部屋には不釣り合いなほどに小さな家具一式が点々と置かれていた。彼女がいつも使っているのだろうな。部屋のなかはやわらかい、いい匂いで満たされていてぼくはもうここから出たくないなと思った。