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インフルエンザで過ごす夜

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 その克紀が彼の腕の中で無防備なまま熱い吐息を漏らしながら身悶えしている。
 遙は決して甘くはない激しいキスに夢中になっていた。頭の芯が痺れる。
 ――どういうつもりだ、こんな――。相手は克紀だぞ。
 罠?
 遙は髪の毛掴んで克紀を引き剥がした。
 「…ぁ…ふ」
 克紀は遙の首筋にぶら下がったまま仰け反った。
 目は閉じたままだったが、口元には笑みが浮かんでいる。
 ――な…。
 克紀は仰け反ったまま、くっと喉の奥で笑った。
 罠――。
 「やる…よ、イン…フル…エン……ザ……」
 「てめえ」
 それが狙いか。
 感染力の非常に強い感染症。一日もすれば高熱を発し、関節痛や筋肉痛などの全身症状のため、大人でも数日は寝込むことになる。
 「動…けるあい…だに、帰……れよ」
克紀はしっしっと手を振った。 ――いい気味だ、テロリストめ。せいぜい苦しめばいい。
 いくらか気が晴れて克紀は目を閉じた。
 しかし、
「克紀、てめえ――。優しくしてやろうと思ってたけど、気が変わった。今から俺が倒れるまでの丸一日、楽はさせないからな、覚悟しろよ」
遙は克紀の熱い首筋に手をかけて、先ほどまで貪っていた唇に再び食いついた。
 熱く長い夜が始まった。