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SNOW~残された者~

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静かに雪が舞い落ちる様を、少女は窓から眺めていた。


彼が戦場へと旅立って行ったのは秋の終わりのことだった。
あのもの静かな彼が剣を持って戦い、あまつさえ人を殺さなければならないのかと思うと胸が軋んだ。
あの優しい青年はそんなこと出来ないとも思うし、またしてほしくもない。
けれどそれよりも彼が死んでしまうことのほうが怖かった。

(止めたのに…)

彼はいつだって優しかった。
自分の願いは何だって叶えてくれた。
少女がどんな無茶を言っても、困ったような顔をして、いつだって最後には叶えてくれた。
なのに、本当に叶えてほしかった願いは叶えてくれなかった。
どんなに脅すようなことを言っても、行くなといっても聞き入れてくれなかった。
ただ笑って大丈夫だと、心配ないと言うばかりで一番大切な願いは叶えてくれなかった。

少女はベッドに歩み寄り、身を投げ出すようにそこに倒れこむ。
青年のベッドに身を寄せても、今では彼がそこにいたという証を感じることは出来なくなっていた。
少女は枕をぎゅっと抱きしめる。
(早く帰ってきて…)

不安で胸が締め付けられる。
心配で身体が千切れそうになる。
早く無事な姿を見て安心したかった。
不安を追い払うように少女は目を閉じる。


気づくと少女は一人麦畑の中に立っていた。
一面に広がる金色の稲穂。
残光を受けて燃え上がるかのような夕焼け。
彼が好きだといっていた景色。
その中に少女は一人でたたずんでいた。

『……』

突然誰かに後ろから呼ばれた気がした。
振り向くと、少し離れた場所に彼が立っていた。

(無事だった…?)

彼の存在が嬉しくて、でもそこに居るのが信じられなくて少女は青年に走り寄る。

『ただいま』

青年が告げる。
その声に確かな存在を感じる。
嬉しくて、泣きたくなんかないのに安堵で涙がこみ上げてきた。

(おかえり)

青年の口元にいつもの穏やかな笑みが浮かぶ。
帰ってきたのだ、本当に。

たくさん話したいことがった。
たくさん聞きたいことがあった。
早く聞いてほしいことがあった。
帰ってきたら話そうと決めていたことがたくさんあった。
作品名:SNOW~残された者~ 作家名:夢宮架音