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笑う猫の口

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 この頃の生活は淡々としていて起伏に欠けている様に思う。会社での仕事は恙なく、特筆する所がないし、家庭環境の変化も、起きる気配がない。
頭を悩ませる必要がないので、幸せであるとは思うのだが今一張りが無く、くさくさとしている自分が居るのが嫌だ。
 何故こんなにも自分がうだうだ腐っているのか、それらしい理由を考えるのだが、浮かばない。本当の所は、化け猫に心を奪われているだけなのだ。あの浮世離れした放蕩者に憧れているのだ。しかし、そうと認めてしまうと途端に世間というものが息苦しく感じられてしまうので、認めない。
たかだか数カ月触れ合っただけで、しかも2年も経ってまだ忘れられないでいるのだ。これは芳しくない。何か、もっと自己を社会に縛り付ける為のアクセントが必要である。そう考えて、何か都合の良い事は無いかと探す日々が、この頃続いていた。
 
 イベントを探している間も、時間は常に決まった速度で動き続ける。探し物にだけ集中出来れば良いのだが、そうもいかず、今日も出社である。
時計を見るともう午前7時半を廻っており、寝坊してしまったと気付く。通勤時間は1時間程であり、これではろくすっぽ支度する時間も無い。慌しくシャワーを浴び、ネクタイとシャツの組み合わせに悩み、通勤鞄を手に玄関を飛び出した。
なんとか遅刻ぎりぎりの電車に飛び込むと、思わず溜め息を吐いてしまう。これから会社に着いても、年度始めなので忙しいし休んでいる暇は無い。しかも今日はとうとう新人が入って来る。こんな遅い時間に出社したら何を言われるか、解ったものでは無い。
 あぁ、嫌だ。新人との顔合わせは済んでいるが、あまり話が合う方だとも思えない。あぁ嫌だ。
作品名:笑う猫の口 作家名:折戸 黄