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ラベンダー
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novelistID. 16841
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魔術師 浅野俊介5

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産まれてくる自分の子が罪もないのに魔界へ落とされることをわかっていて、その上明良の幸せな生活を奪ってまで貫こうとするこの女の愛は、天使的にも人間的にも誤っている。

「お前それでも守護天使か!!」
「いいの…もう天使じゃなくなったんだもの…。」
「それが勝手過ぎるって言うんだ!!」
「だって私は、誰よりもこの人と長くいたのよ!!」
「…そりゃ…守護天使だからそうだろうけど…だからこそ、この人の幸せを奪ってはいけないんじゃないか?」

女が泣き出した。

「だって好きなんだもの…」
「わかるけどさ…これだけ色男で、幼い時から苦労してて、性格もよかったら…そりゃ惚れてしまうのもわかるけど…それならリュミエルを見習えよ。リュミエルは圭一君を愛したために堕天使になってしまったが、圭一君に純愛を貫くためにずっと男姿で…悪魔になっても傍にいるんだぞ。それこそが本当の愛じゃないのか?…副社長が不幸になろうと自分と一緒に魔界に来て欲しいと言うのは、天使じゃなくても間違ってるよ。」
「…いいの…誰にも私の気持ちなんかわからないの…」
「ああ、わからないね!そんな自己中心的な…」

浅野ははっとした。明良の頭が動いたのだ。

「…ん?…僕は…?」

明良が浅野を見た。

「…?…どうしてあなたが運転を?」
「え…いや…その…」
「あ!…あの人は!?…道でうずくまってた…」
「あ、ああ…ここにいますよ。病院に連れて行こうと思ったんですが…。」

明良は後部席の女を見た。
女は目を見開いて明良を見ている。守護天使がマスター(主人)に気付かれることなんてそもそもないことだ。
…しかし女はもう天使ではないが…。
明良は「良かった…」と言って微笑んだ。

「すいません。どうも私の方が具合が悪くなってしまったようですね…。時々あるんですよ…」

明良が浅野に申し訳なさそうに言った。

「!?時々?…よく倒れるんですか!?」
「ええ…このところ頻繁に…」

浅野は思わず女を睨みつけた。女が下を向いた。

(おまえ…副社長に気を失わせて何をやったんだっ!!)

そう言いたいが、言えない。
浅野は「とにかくプロダクションに行きましょう。」と言った。

「え?でもこの方を病院に…」
「いえ。もうすっかり具合がよくなったようなので、副社長をお送りしてからこの人を家までお送りしますよ。ちょっとお車お借りすることになりますが。」
「それは構いませんが…でも私は後で…」
「だめです!今は副社長の方が顔色が悪い…とにかくプロダクションに戻って休まれた方がいいです。」
「…そうですか…」

明良は後部席の女に再び向いて、申し訳なさそうに微笑んだ。

「すいません。…助けるつもりがこんなことになってしまって…」

女は首を振り、涙ぐんで下を向いた。

……

3人(?)は黙ってそのままプロダクションに向かった。
明良が「音楽かけていいですか?」と運転する浅野に言った。

「ええ。もちろん。」

明良はカーナビを操作し、再生ボタンを押した。
圭一の『ライトオペラ』の曲が流れた。

「!!」

浅野は思わず、バックミラーで後部座席の女を見た。様子は全く変わらない。だがじっと聞き入っている。
浅野はほっとしたように前を見た。

(まだ天使なのか?…そういや、リュミエルも平気だったな…元天使は大丈夫ってわけか。)

浅野がそう思っていると、明良が口を開いた。

「圭一の新しいアルバムなんですよ。…もうすぐ発売になります。」
「あ!そう言えば、この曲聞いた事がなかった…うわー!レアですねー!!」

浅野が思わずはしゃいでそう言うと、明良が笑った。

「シングルだけ先に出していたんですが、とても好評でね。この曲のためにアルバム製作を圭一に急がせました。…これは沢原君が作った曲なんですよ。」
「えっ!?そうだったんですか!…クラシックぽいから、クラシックをベースにしているのかと…」
「いえ。完全な沢原君の創作です。…よくできてます。」

明良の言葉に、浅野がうなずいた。明良は続けた。

「歌詞は英語ですが…愛する人を事故で亡くし…残された男が何もしてやれなかったと嘆く歌です。」
「!!…沢原常務の…実体験なんでしょうか?」
「さぁ…。悲しい歌ですが、私は好きでね。…私も死んだ姉に何もしてやれなかった…。」

明良はこの姉が死んだことで、親族を一切失い独りきりで生きてきたのだった。その過去をすべて見ている浅野は黙っていた。

「でも…私が生死をさまよった時…その死んだ姉にあの世の入り口で会いましてね…。自分の分まで幸せにならなきゃ、こっちへ来てはいけない…と言われました。」
「!!」

浅野はまた、思わずバックミラーで後部席の女を見た。
女も下を向いたまま目を見開いている。

「…今は…いい妻に会えて、できすぎた息子を持てて…一番幸せな生活を送らせてもらっています。…もう死んでもいいかな…と思う事もありますが…」
「!!だめですよっ!副社長はまだ30歳越えたばっかりじゃないですか!これからまだまだ幸せなことありますよ!」

浅野が慌てて言った。後ろの女がそれを信じたら、魔界へ連れ込む理由になってしまうからだ。
明良が笑った。

「…ありがとう…私も…今はこの幸せにまだ浸っていたい…それが本音です。」

浅野がほっとした表情をした。
明良は後ろの女に振り返った。

「…あなた…死のうとなさっていましたね?」
「!?」
「!?副社長…」

女も浅野も驚いた。

「間違っていたらすいません。…何故か感じたんです。あなたの…なんというか…悲しんでいる何かを…」

明良の言葉に、女は目を見張って明良を見ている。浅野はそんな女の表情をバックミラーでちらと見た。

「…幸せはなかなか手に入れることはできないものです。…今、幸せな私が言っても…あなたの心に響かないかもしれませんが…幸せは必ず来ます。それを信じなければ…幸せが近くに来ても気づくことができません。」

女の目から涙がこぼれた。

「今、このアルバムで歌っている息子も…初めて会った時は…笑顔一つ見せてくれなかった…。それが今は天使のような笑顔を見せてくれます。…あなたにも…笑顔が戻るように…祈ります。」

明良の言葉に女は両手で顔を塞いだ。
そしてそのまま消えた。

「!!」

明良が驚いて身を乗り出した。

「やばっ!副社長すいません!!」

浅野が指を鳴らした途端、明良は目を覚ましたような顔をした。

「?????」
「副社長、お目覚めですか?」
「え?…あれ…?私はどうして助手席に…」
「めまいを起こされたようです。」
「運転中にですか!?」

浅野が苦笑した。

「…ええ。それで交代しました。」
「すいません!…事故なんか起こしたら…大変なことになるところだった…」
「最近お疲れじゃないんですか?…今聞いているこのアルバム…かなり製作を急いだようですし…」
「あ…」

明良は今、アルバムが鳴っているのに気付いたようである。

「…そうだ…そうです…。圭一にもしんどい思いをさせて…」
「…今日はもう、お帰りになった方がいいんじゃないですか?」
作品名:魔術師 浅野俊介5 作家名:ラベンダー