小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ラベンダー
ラベンダー
novelistID. 16841
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

魔術師 浅野俊介5

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 

第5章 守護天使の恋



(…圭一君って天才だっ!!)

浅野俊介は、ステージでパートナーの「木下雄一」と激しいダンスを披露している北条(きたじょう)圭一を客席から見て思った。
圭一が所属しているユニットはいくつかあるが、その中の1つがこの雄一とバートナーを組んでいる「First(ファースト)」だった。元々はこのユニットがデビューだと言う。

ステージで圭一がマイクを持ち直して歌いだした。オペラを歌う時とは全く違う、低い男らしい声。
踊りながらにも関わらず、声がぶれていない。

(なんか…いつものお坊ちゃんらしくなくて、大人っぽくなるんだなぁ。…でも、僕はオペラを歌う圭一君の方が好きかな。)

そう思いながら、浅野はステージで汗を飛ばしながら歌い踊る圭一を見ていた。
曲が終わった。周りのファンから歓声が上がる。浅野が思わず耳を塞ぎそうになるくらい、奇声が飛び交った。
浅野は苦笑しながら拍手をした。
隣に座っている圭一の恋人のマリエが、拍手をしながら浅野を見た。

「耳痛いでしょ?浅野さん。」
「すごいですね。…こんな大スターと自分が一緒に仕事をしていることが信じられないですよ。」

浅野がマリエに言った。マリエが笑った。
マリエは圭一より2歳年上で、日本人とフランス人のハーフであるが、フランス人の血の方が濃いようだ。目は蒼く、肌は透き通るように白い。髪の毛は金髪だそうだが、目立つという理由でいつも濃い茶色の長髪のかつらをかぶっている。

圭一と雄一が客席に手を振り、上手(かみて)に去って行った。

司会者が現れ、次の曲の紹介をしている。
浅野とマリエはそっと席を立ち、客席を後にした。

……

「浅野さん!ありがとうございました!」

汗を拭きながら圭一が言い、手を差し出した。浅野がその手を握った。

「また違う圭一君が見られて感動したよ。」
「ありがとうございます。」

圭一がタオルを首にかけると、マリエがペットボトルのミネラルウォーターを圭一に手渡した。圭一とマリエはためらわず「チュッ」とキスをした。

「!!」

浅野が面食らった。後ろで雄一がくすくすと笑っている。

「圭一、浅野さんがびっくりしてるで。」

それを聞いた圭一が顔を赤くした。マリエが「フランス式ね。」と浅野に言った。

「いや…構わないけど…。びっくりしたよ。」

浅野が頭を掻きながら言った。圭一が「すいません」と言った。

「あ、雄一…」

圭一が雄一の傍に寄って言った。

「明日な、新曲の打合せがあるんやて。雄一のユニットの収録時間て何時からやった?」

浅野はまた圭一の大阪弁に驚いた。圭一の出身は大阪だとは知っていたが…。

「明日は、昼の1時から4時まではおらへんで。」
「そうか…ほんなら、帰ってくるの待ってるわ。」
「ええんか?」
「うん。またバーも手伝うつもりやし。」
「わかった。ほんなら5時ごろって思っといて。」
「わかった。」

マリエが圭一に呼びかけた。

「ケイイチ、外で待ってるから。」
「うん。」

マリエが出て行った。
浅野が一緒に出て行こうとした。

「浅野さんはいいんですよ。男同士だから。」

圭一が笑いながら言った。

「いやそうだけど…マリエちゃんと一緒にいるよ。」
「わかりました。」

圭一が会釈した。雄一が奥で頭を下げている。
浅野も返礼して、部屋を出た。

……

明良が車の横に立って待っていた。
圭一達が明良に駆け寄った。

「お疲れ様。」

明良がそう言い、運転席に乗った。圭一、マリエ、雄一が後部席に、浅野が助手席に乗った。

(副社長が自らお出迎えか…)

こういうところは、ちゃんと経費節減してるんだな…と浅野は思った。

……

「雄一君は家かい?」

明良が運転しながら、バックミラーで後部座席をちらと見ながら言った。

「はい、ありがとうございます。」
「圭一とマリエはうちだな。」
「うん。」

浅野は「え?」と言った。
浅野はバーの仕事があるので、プロダクションだった。

「あの…じゃあ、私は適当なところで降ろしてもらえれば…。副社長も家に…」
「ああいや、私は仕事があるので、プロダクションに戻りますから、いいですよ。」
「そうですか。」

浅野はほっとして言った。

……

雄一、圭一、マリエを降ろして、明良と浅野の2人だけになった。
黙っていると、息が詰まりそうなので、浅野が口を開いた。

「相澤プロダクションは、社内恋愛に寛大なんですね。」
「あー…タレント事務所によっては禁止してるところもあるようですね。」

明良が言った。

「でも、若い子に社内だろうが社外だろうが恋愛を禁止するのは可哀相ですよ。それで人気がなくなるとかいいますが、今は時代が違います。なくなる時は他の理由でもなくなるんですから。」
「…なるほど…」

浅野がうなずいた。(いい人だなー)と思った。

「ん?」

明良が何かに気がついた。

「すいません…ちょっと時間いいですか?」
「?はい。」

バーのオープンまで、後1時間はある。

明良がハザードランプをつけて、車を路肩に寄せた。

浅野も気がついた。歩道に女性がうずくまっている。

明良が車を降りた。
浅野もドアを開いてでようとした。
だが、心臓がドクリとした。
明良が「どうしました?」と女性の背中に触れた。

「!副社長!!」

浅野が叫んだが遅かった。
明良が頭に手をやり、その場に崩れ落ちた。
女が明良に手を伸ばした。

浅野は人差し指を額にかざし、「転送!」と言った。
女が消えた。どこへ飛ばしたか浅野にもわからなかった。
本当は封印したかったのだが、紋を描く間がなかったのである。

浅野は明良の体を抱き上げ、開いたままのドアから、助手席に座らせた。

……

浅野は車を走らせた。明良は目をさまさない。

(あの女は副社長に何をしようとしたんだ?)

浅野はあの女の悪魔が、明良に危害を与えようとしたのではないように思えた。

浅野は気を失っている明良をちらと見た。

(…色男というのは、この人のことを言うんだな…)

浅野はそう思った。ふとバックミラーを見ると、さっきの女が後部席にいる。

「!!」

浅野は危険を感じ、車の少ない海の道へと入った。プロダクションとは真反対方向だが仕方がない。
浅野はブレーキを踏み車を止めた。この女形の悪魔は、前の悪魔と違って大した力はないようである。
浅野は後部席にいる女に振り返った。

「副社長に何をするつもりだ?」
「魔界に連れていくの…」
「!?…」
「私と一緒に魔界で暮らしてもらうの…」
「勝手な事を言うな!この人にはもう奥さんと子どもがいて、今、幸せな生活をしてるんだ!」
「私だって悩んだわよ!でも…本当に好きなんですもの…」
「…ちょっと待て…お前悪魔じゃないな…副社長の守護天使か!」

女はうなずいた。
天使が人間を愛してしまうと天から落とされる。…つまり堕天使となる。また人間界で交わって子どもを作ってしまったら、産まれてきた子どもまでが悪魔になってしまうのだ。
つまりこの女はもうこの時点で堕天使なのだが、もしかすると明良と交わる事まで考えているかもしれない。そのために女形になっているのだ。
作品名:魔術師 浅野俊介5 作家名:ラベンダー