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「聖バレンタイン・デー」

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 いったいどこへ行きやがった。
 ふ、と、学校を出るときに見た、嫌なものが頭をよぎる。――まさか。いや、間違いない――か。
 光は煙草を一本くわえると、上着も着ないで部屋を後にした。


 「どうしたんだい?不機嫌そうだね」
 彼らの住むマンションの最上階は2フロア、オーナーの住まいになっている。
 光は重ーい気分でオーナー宅の呼び鈴を押した。
 オーナー――佐々克紀(さつさかつき)。彼の高校の一年先輩、二年の学年主席、今期生徒会長、で、――本来なら、光が一番会いたくない人物である。
 「うちのが邪魔してるだろう?」
 出てきた克紀の顔を一目見て、光は確信した。やっぱりここだったか。
 下校時から克紀は彼らを見ていたのだ。一瞬合った目を見なかったことにはしたが、また、よからぬことを考えている質(タチ)の悪い目だった。
 「うちの、ね。来てるよ、連れて帰ってくれる?」
 克紀はドアを広く開けて光に入るよう促した。
 できれば入りたくはないが――。
 光はくわえてきた煙草に火を付けた。
 玄関から続く廊下の突き当たりが広い居間になっている。
 窓は床から天井まである巨大なもので、街の向こうに海までが見えていた。
 部屋の中央は円形に一段下がったところがあって、そこに高価そうな大きな応接セットが設(しつら)えてある。
 王子は革張りのソファにもたれかかるようにして座っていた。
 目が虚ろだ。
 「――こいつに何をした?」
 光は克紀を睨みつけた。
 「いろいろ」
克紀はくすりと笑った。
「あんまり落ち着きがないものだからね。大人しくできるように。一服盛って、念入りに、ね」
 「克紀ぃ、のど渇いたぁ」
 克紀が頭を撫でてやると、王子は気怠(けだる)げに振り仰いだ。
 光の姿は目に入っていないようだ。
 克紀は意地悪に笑うと、王子の耳元で囁いた。
「この部屋は禁煙なんだが、アレを片付けてくれたら御褒美に飲み物をあげよう」
すらりとした綺麗な指が光を指す。
 王子の目がそれを追って、光の姿を捉えると、くるりとした瞳に一瞬にして焦点が結ばれる。
 王子はぴょーんとソファから飛び降りると、弾かれたように光に飛びかかった。
 ――早いっ。