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スカイグレイ
スカイグレイ
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風が私にそうさせたのか

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怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
……寒い。恐らく、気温のせいだけではないだろう。毛布を体に巻きつける。
寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い。
 叫んでも誰も来てくれない。外に出るのは「危険」だから。
 カズヒトさんは、ユウジくんは、今どうしているだろう。私と同じように恐怖に震えているのだろうか。いや、きっと違う。あの二人はまだ起きていて、万が一に備えて警戒しているだろう。
 私だけが、こんなに怯えている。
 私だけが、こんなに震えている。

 結局、私は一睡もできずに朝を迎えたのだった。

 朝七時ちょうどにリビングに降りて行くと、ユウジくんがいた。眠そうに目を擦っている。
「おはようっス」
「おはよう」
 少しぎこちなくはあるものの、ユウジくんが挨拶をしてくれたことにほっとした。
「ナナエさん、隈、すごいっすよ」
「人のこといえないでしょ」
 軽口を叩けるくらいに回復したようだ。
「お互い、眠れなかったみたいっすね」
「そうみたいね。……カズヒトさんは?」
 朝七時と指定した張本人がいない。
「まだっす。……おっかしーな。時間に遅れるような人じゃないのに。……まさか!」
 ユウジくんが勢いよく立ち上がった。と、その時。
「ごめんごめん。遅れた」
 カズヒトさんがリビングに入ってきた。
「……もー、ごめんごめんじゃないっすよ! 心配するじゃないすか!」
 ユウジくんがむくれる。
「ははは……、悪かった」
 カズヒトさんは寝癖のついた頭を掻きながら謝った。
「そうっすよ全く……。 早く警察に行きましょう!」
「いや、それはちょっと待って欲しい。どうしても話しておきたいことがあるんだ」
 カズヒトさんは、今までに見たことがないほど真剣な表情をしていた。
「どうしても話しておきたいこと?」
 私が鸚鵡返しするとカズヒトさんは、でもその前に、と微笑んだ。
「朝食にしましょう。腹が減っては戦は出来ぬ、です」

三人で協力して朝食の後片付けを済ませた後、カズヒトさんが食後のコーヒーを淹れてくれた。
「こんなにのんびりしてていいんすか?」
 ユウジくんが頬杖をついて言った。コーヒーには全く口を付けていない。
「……じゃあそろそろ、始めるとしますか」
カズヒトさんは、手に持っていたコーヒーカップをテーブルに置いた。
「始めるって、何をですか?」
 私が聞くと、カズヒトさんは口元を少しだけ緩ませた。
「探偵の真似事をしてみようと思うんですよ」
「何言ってんすかカズヒトさん。そういうのは警察に任せるんじゃ」
 ユウジくんが驚いたように口を挟む。
「うん。普通はね。でも僕らの場合は少し事情が違う」
「そりゃ確かに、ちょっとばかりデリケートっすけど」
「それで? 何を話そうっていうの?」
 私は、苛立ちを隠せない自分に苛ついている。
「……なぜサツキさんは亡くなったのか。その謎が、解けました」
 カズヒトさんは静かに言った。
「それ、どういう意味よ」
「実はさっき、ここに来る直前にサツキさんの部屋に入って、バルコニーから下を見てみたんだ。サツキさんの遺体は、まだ同じ場所にあったよ。それで、昨日は暗くてよく見えなかったものが見えた。……サツキさんの首には、絞められた跡がついてたんだ」
「それってつまり……」
 ユウジくんが青ざめる。
「サツキさんは殺されて、そして、バルコニーから下に投げ落とされたってことになる」
「まさか……」
 ぶるぶると震え始めたユウジくんを一瞥して、カズヒトさんは無表情に続ける。
「そんなことは、僕とユウジくんには絶対不可能。だから、消去法で結論はこれしかない。……ナナエさん、あなたがやったんですね」
 カズヒトさんの目は、私の目を真っ直ぐに見据えていた。その目が何を語ろうとしているのか、私には推し量ることができなかった。

私は、これを望んでいたのかもしれない。これで良かったのかもしれない。私は卑怯だから、罰を受けずに済むのならそれでいいと思っていた。だからといって、一人で罪を背負い続けられるほど私は強くない。人を殺した記憶は私を苛むだろう。それを誰にも告白せずに、何食わぬ顔で生きていくことは果たして、できるだろうか。……いや、できはしない。私は臆病だから。
今、ここで、かけがえのない仲間によって私の罪は暴かれた。それは私にとって幸運だったのか不運だったのか。彼らは私と同じ。同じだからこそ、理解して欲しいという甘えと、幻滅されるかもしれないという恐れがある。いや、理解してくれたところで、幻滅されたところで何も変わらない。私は人を殺した。事実はそれだけだ。

「なんで……、サツキさんを殺したんですか。僕達は同じ苦しみを分かち合う仲間じゃないですか」
 カズヒトさんが静かに問う。
 問われたのなら、答えなければいけない。私と彼らの名誉を賭けて。
「あの人は……私達と『同じ』じゃなかったの。最初からただの好奇心と嫌がらせ目的で参加してたのよ。仲間なんかじゃなかったの」
「……っ!」
カズヒトさんもユウジくんも、絶句していた。
「まさか、そんなはずない。だって、サツキさんは完璧だったぜ。仕草だって、喋り方だって。ううん、それだけじゃない、外見だって」
 ユウジくんが青ざめた顔をこちらに向けた。
「それだけ役者だったってことよ」
「そんな馬鹿な……」
 カズヒトさんも、信じられないという顔をしていた。
「信じてくれないの? 私が理由もなしに人を殺すような人間だと、そう思ってるの?」
 気付けば私は、カズヒトさんに詰め寄っていた。カズヒトさんの瞳には私が映っている。見たくない現実。思わず目を逸らした。
 どうして私はこんな姿に生まれてきてしまったのだろう。
 何がいけなかったのだろう。前世での行いが悪かったのだろうか。それとも、誰かに呪われでもしたのだろうか。
 もし神様なんてものがいるとしたら、私は聞いてみたい。
 なぜ私にこんな仕打ちをするのか、と。
 なぜ私はこんなにも苦しまなければならないのか、と。
 私達は、いわゆるトランスジェンダーだ。
 私の心は女性だけれど、体は完全に男。
 カズヒトさんとユウジくんは、心は男性だけれど、体は女性。
 私達は、心と体が一致しないこの苦しみを共有し、お互いを支えあう仲間。あのネット掲示板がどれだけ私の心を救ってくれたか知れない。
 一人で悩んで、苦しんで。私の周りに理解してくれる人はいなかった。だから、自分に好きな名前を付けて、本来の自分として話すことのできるネット世界は、現実世界を忘れさせてくれた。
 そんな居心地の良さに甘えすぎていたのかもしれない。だから気付かなった。あんな「悪意」が私達の中に潜んでいることに。
か「昨日の夕方、私はあの人の部屋に行ったの」
 私は語ることにした。昨日までサツキだった男が私に向かって何と言ったかを。そんなことに何の意味があるかはわからない。ただ知っていて欲しい。だって私達は「仲間」なのだから。
             ***
昨日までは、私達は『同じ』だと思っていた。あの人の美しさが羨ましくて、そして少し妬ましかった。だから、二人きりで話したかった。