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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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ドキドキ幽体離脱パニック

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離脱でびっくり



「何じゃ!!」
 思わず情けない声で叫んでしまった俺。それも仕方ない。なんてったって、目の前に天井があったんだから。俺は仰向けに寝ていた。目覚めた途端目の前に天井。五十センチぐらいかな? 手を伸ばすと天井をさわれそうな距離……マジあり得ません。
「どれだけ天井低いんだよ。俺住めねーし」
 って一人で突っ込んでしまった。虚しいよな。そんな気分になって思わず寝返りをうとうと、体をよじった。するともっと信じられない光景が……
「俺浮いてるじゃん!」
 そうなんだよ。俺浮いていたんだ。浮いていたから天井が近く見えたってわけ。そんなことよりも、もっとあり得ない事実発見。
「俺がもう一人?」
 天井近くから部屋を見下ろしている俺の目に映ったのは、ベッドに寝ているもう一人の俺……どういう事なんだよ!って俺死んだのか? ベッドの上にいる俺は死体? 俺は幽霊? 嘘だろ?!
 とんでもなくパニる俺。だが、なんか腑に落ちない。死因は何だ? 急死するっておかしくね? 俺の体何ともなさそうだぞ?
 ってほのかな望みをたぐり寄せるように、希望的推測を進ませる。とりあえず、宙に浮いている状態から、床に降り立ち、ベッドの俺をまじまじと見てみた。
 するとなんと寝息を立てているじゃないか。俺生きてるじゃん! ほっと胸をなでおろす俺。
 じゃあ、今の状態をどう理解すればよいのか……まてよ? もしかして「幽体離脱」ってやつか? あの生きながらにして魂抜けるってやつ。おお、それだったらマジ凄いじゃん! 俺は歓喜に震えたね。何気に神秘体験じゃん。そういう訳で、未知の世界に踏み入れた感動でドキドキしながらとりあえずベッドに腰掛けた。
 すると、俺とベッドの俺とがホースみたいなヒモでつながれていることに気付いた。ああ、これがシルバーコードってやつか。切れると死ぬってやつだな。これがつながっていることからも、死んでいないってことが分かる。って何かのオカルト雑誌で読んだことを思い出した。
 じゃあ、これを切らないようにすればいいわけか。
 さて、どうしようか。このまま何かするか、体に戻るか。って体に戻る方法分からないし、これで普通に帰ったらせっかくの幽体離脱がもったいない。
 ん? 待てよ……俺の体はいわゆる幽霊みたいなものだ……ってことは、誰の目にも俺は見えない……むほほほほ!
 こうなったら男のロマン……男の永遠の夢……女風呂を覗くぞ!!
 俺は中学生。どんなこともエロにつなげる血気盛んな年頃なんだよね。しょうがないじゃん! って誰に俺言い訳しているんだよ……いいんだよ。誰もみてねーし。
 俺はほとばしる性欲をたぎらせながら、部屋から出ようとした。でもその瞬間致命的な問題が発覚してしまう。
 なんと、シルバーコードが短かったのだ。約五メートルといったところか? これじゃあ女風呂どころか部屋すらも出られない。ショック!!
「女風呂!」
 おあずけをくらって、欲望が更に吹き出しそうになり、思わずリアルでは到底口にできない言葉を事もあろうか思いっきり叫んでしまった。でもまあ、誰も聞いていないだろうから良しとしよう。日頃真面目を装っている俺だからこそ、こんな俺を人に見せられない。でも、誰も見ていないと分かるやいなや大胆になる。人はこれをムッツリと呼ぶだろう。そうだよ。俺はムッツリだ。
 そんな荒んだ思考を及ばしながらも、諦めきれずに、とりあえずシルバーコードをさわってみた。すると、軟式テニスのボールのようにぷにぷにと伸び縮みするじゃないか。こりゃ伸びるな多分。
 このシルバーコードが切れたら死ぬというおそれをもちながらも、女風呂を覗く可能性に賭けるために、シルバーコードを伸ばすことにした。生よりも性が勝った瞬間だった。俺うまいこと言ったな!
 おお伸びるじゃないか。女風呂! 今の俺はシルバーコードが伸びるイコール女風呂という訳の分からない構図ができていた。
 勢いよく部屋から出る俺。空を飛んで家から飛び出す俺。壁をすり抜け、空を飛ぶという衝撃的な体験はどうでもよかった。そりゃあちょっとは感動したけどね。
 外に出れば女風呂を覗けると思った俺。でもこれまた致命的な問題が……
「どこに女風呂があるんだよ!」
 そもそも銭湯とか温泉とか日頃いかねーんだよね。家に風呂あったらそれでいいじゃん。温泉なんてジジババが行くところだ。ファミリー銭湯なんてのも全く興味なかった。
 ガッデム!! こんなことなら、いつ幽体離脱してもいいように、風呂屋をチェックしておくんだった! ん? そら無理か? 自分が幽体離脱するなんて思わなかったもんな……どうしよう……あ……困ったときのネットだな。
 そう思って、家に帰り、パソに向かった。ネットで検索すれば一番だ。と思いながらパソを手にしようとしたが……さわれない……俺は今幽霊じゃん! ものさわれたらおかしいじゃん!
 そんなこんなで落ち込んでいると、何だか周りの風景がおかしくなった。なんかもわもわして、暗くなるっていうか、景色がかすむっていうか……
「……様」
「ア……様」
 遠くから女の声がする。でも何て言っているのかな? そう思うや否やなんか見慣れないところに飛ばされた。
 目の前は見慣れない部屋。何だか薄暗くて不気味な部屋だった。そこに、訳の分からない服……ローブってやつ? ゲームの魔法使いが着ているようなフード付きの服だよ。それを着ている女が三人いた。
「嗚呼! アシュタルト様を召喚できた!」
 アシュタルトって何だよ? もしかして俺のことか? 召喚? ん? 俺召喚されたのか?
「ゲーティアの秘術を使えばアシュタルト様の召喚も可能になる……」
 ん? こいつら俺のクラスの女どもじゃないか! 真ん中の杖みたいなものを持っている奴が委員長の百合恵……右にいる震えている奴が、いじめられっ子の飛鳥……左が暴力女、理子……何やってるんだ?
「アシュタルト様! 私たちの願いを叶えてください」
 あのー百合恵さん? 何言っているんですか? 俺が何でお前の願いを叶えなくちゃいけないんだよ? と思いつつ、何で俺がここにいるのか考えた。
 アシュタルト? 何だか知らんが誰のことだよ。なんかこいつら勘違いしてねーか?
「悪魔は何でも願いを叶えてくれるんでしょ? お願いします」
 ん? 悪魔? アシュタルトって悪魔なのね……って黒魔術とかである、悪魔召喚ですか? それで俺が呼ばれた……っておい! 俺悪魔じゃねーし!
「いい加減にしてくれよ」
 思わず呟いた。まあどうせ聞こえないだろうしね。
「いい加減じゃありません! 私たち本気です!」
 理子が叫んだ。ん? 聞こえているの?
「聞こえるのか?」
 って思わず問いかけた。
「聞こえます!」
 って精一杯の声で飛鳥が叫んでいた。俺はちょーびっくり。もしかして俺ってばれている? 姿見られたら最悪だな。明日なんて言われることか……
「見えてる?」
「残念ながらお姿までは……」
 おお助かった。俺ってばれねーな。声が似ていると思われても、こんなところにいるとは思わないだろうしね。せっかくだからちょっくら遊んでみるか。
「お前ら、悪魔召喚かよ。頭大丈夫か?」