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ハイエースの旅人

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 九月、第三金曜日。
 僕は会社に有給届を出して、愛車のV-MAXと共に北陸へツーリングに来ている。世間でいうところの「息抜き」というやつだ。
 金、土、日、月と、四連休。会社にしてみればとんだ不良社員なのだろうが「息抜きというのは自ら作り出すことがストレスを溜め込まない方法だ」というのが僕なりの持論だ。周りの目が気になる」だとか同僚は常々言っていたりするが、あくまで息抜きなのだ、上司や同僚にどう思われているだとかは気にしてられない。
 地元、静岡県は浜松市から、高速道路を使わないでのんびりと富山までの長い道のりを走ってきた。バイクというのは不思議な乗り物で、車よりも集中力を要するせいか、あまり時間の流れを感じない。ツーリング好きのバイク人に限ったことなのかもしれないが、少なくとも僕そうだ。さすがに何度も通った事のある道であれば少しは飽きもするだろうが、それが初めて走った道などであればまったく飽きず、時間の流れを感じず軽快に走り続けることができるのだ。
 浜松から国道二五七号線を北上、愛知県を抜け、下呂~高山の山中を越える。平地から山中へ、アルプスを越え岐阜県と富山県の県境を示す標識が目に付いた頃には、時間はすでに十五時をまわっていた。六時キッカリに家を出たのだから、すでに九時間が経過していることになる。
 太平洋沿いに住む静岡県民にとっては、山を越えて出会った日本海は特別な存在だ。雄大なアルプスを南に望み、北には海がある。そんな展望はとても新鮮だった。
 富山県は平地に広がる富山市内から、東に行けばホタルイカや蜃気楼で有名な魚津市や滑川市、そして日本最高峰の山々がそびえる立山、最深部の黒部ダムの地まで、さまざまな自然の景観を楽しめる場所だ。最も、知ってのとうりここは有数な豪雪地帯だ。太平洋側に住む人間が、山を越え、この地に乗用車で踏み込めるのは五月から十二月までのこと。九月になる今も、すでに秋の便りは確実に届いていた。友人が一人魚津に住んでいるのだが、毎年、送られてくる冬季の写真には驚かされる。雪の降らない遠州の市民からすると、この夏季と冬季の二面性は幻想的で羨ましくも感じるときもあるが、雪かきの話しを聞く度に「やはり浜松がいいかな」と思ってしまったりする。そんなものだ。毎朝、五時起きで雪かきはごめんだ。

作品名:ハイエースの旅人 作家名:山下泰文