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スカイグレイ
スカイグレイ
novelistID. 8368
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Second declaration

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「……譲(ゆずる)先輩? 聞いてます?」
不満げに訝しげにそう問われて、加納譲は、はっと我に返った。
「あ……、ああ、済まない。ちょっと考え事をしていた」
「ふうん……」
 隣を歩く松崎彩華は、納得したようなしていないような顔をして、小首を傾げる。
「先輩がぼーっとするなんて珍しいなぁと思って。……で、何を考えてたんです?」
 どうやら、全く納得していない様子だ。どこか小動物を思わせる黒い瞳が、頭半分ほど低い位置からじっと見つめてくる。瞬き一つしないから、どうしてもその問いから逃げられないような気がしてしまうのだ。
 実際は、考え事というほどの考え事をしていたわけではない。ただ、彩華の話を聞いているうちに漠然と、本当に漠然とした何かが頭に浮かんできただけなのだ。だから、「何を」と言われても答えることはできそうにないのに。そんなこととは露知らず、彩華はただ、彼のその唇が動くのを待っている。ここは、なんでもいいから何か言うしかあるまい。
「それはだな、」
「あ、私、当ててみせましょうか?」
 突然、彩華が遮った。
「ずばり、愛と薔薇について! 違いますか?」
 彩華は無邪気に言う。なぞなぞに答えて、正誤判定待ちをしている子どものような表情で。
 では、その案に甘えるとしようか。
加納は、女子の百人中九十八人の心を蕩かすであろうと自負しているその微笑を、彩華に向けた。
「その通り。図星だよ彩華君。愛と薔薇には密接な関係性があるということをどうやって証明しようかと考えていたところだ。君も知っているように、薔薇には様々な色がある。勿論、花言葉もそれぞれ違う。例えば、赤い薔薇なら『熱烈な恋』、白い薔薇なら『純潔、尊敬』というように、」
「もういいです」
 彩華が目を逸らす。
「え、」
 何が、と問おうとした加納を尻目に、彩華は二歩、三歩と先を歩く。そして、あたりに風が巻き起こりそうな勢いで振り向き、大きく息を吸い込んでからその口を開いた。

「譲先輩の嘘つき!」

半径二十メートルには響き渡ったであろう、良く通る声だった。呆然としている加納を置いて、彩華はすたすたと歩き出す。
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれたまえ彩華君!」
 彩華と加納の間の距離はほんの数メートル。追いつくことは容易い。しかし、彩華の背中がそれを拒絶していることは、はっきりと見て取れた。
 
 結局、加納は彩華の姿が見えなくなってから、歩みを再開させたのだった。相手が自分に対して腹を立てている時に話しかけるのは、その怒りを解くどころか、かえって逆効果なのだ。
それにしても、彩華君はなぜあんなに怒ったのだろう。僕は何かまずいことを言ってしまったのだろうか。加納は考える。「愛と薔薇」についてなど考えていなかったことは見え透いていたか。それは認めよう。だがそれは、通りの真ん中で、あんなに大きな声で嘘つき呼ばわりされるほどの罪なのだろうか。
女性とは、わからない生き物である。

***

『なるほど。事情は大体わかったわ。なんで彩華ちゃんが怒ったのかも、なんとなく』
 携帯電話の向こう側から、一ノ瀬(いちのせ)咲良(さくら)の頼もしい声が聞こえる。
「本当かい? 一ノ瀬君」
 やはり、困った時は誰かに相談するのが一番なのだ。問題は恋愛関係のことを誰に相談するかということだが、その点、異性の友人というものは本当にありがたい。
一ノ瀬咲良は、加納が所属する文芸部の部長である。しっかり者で真面目で、面倒見も良ければ頭も良い。そんな彼女についこの間告白して、見事長年の片思いから脱出し、彼氏の座に納まったのは、学年で一、二を争う劣等生兼文芸部員、赤井龍之介。二人は不釣合いなようでいて、実はとてもバランスの取れたカップルなのだ。
一ノ瀬咲良を信用し、且つ彼女に赤井という彼氏がいるとわかっているからこそ、加納は彩華とのことを相談できる。彩華もまた、同じ文芸部員なのである。
『それにしても、加納くんからこんなこと相談されるなんて、すっごく意外だったな。恋愛なんか百戦錬磨だと思ってた』
「はは、そうかい?」
 その辺りについては軽く受け流し、話を本題に戻す。
「それで、彩華君のことについてなんだが……」
『ああ、そうだったね。まず、加納くんが彩華ちゃんを怒らせた直接の原因は二つあると思う。その一、彩華ちゃんの話を聞いてなかったこと。その二、嘘をついたこと』
「ああ、それはわかる」
『彩華ちゃんは、加納くんが自分の話を聞いていなかった時点で、もう相当機嫌を悪くしてたはずよ。その上、真っ赤な嘘をべらべら喋りだしたもんだから……』
「余計に機嫌を損ねてしまったというわけか」
『うん。その時の彩華ちゃんの心情は多分こうよ。加納先輩は自分の話を聞いていなかった。もしかすると、先輩は自分のことがあまり好きではないのかもしれない。じゃなかったら一生懸命聞いてくれるはずだ。それじゃあ、ちょっと鎌をかけてみよう。もしかしたらこんな不安は打ち消されるかもしれない。……ってね』
「……一ノ瀬君、恐れ入った。さすが文芸部部長だな」
『まだ推測の域を出ないわよ。それでも大体当たってるとは思うけどね』
「それで、彩華君に、その、許して貰うにはどうしたらいいだろう」
『そうねえ。やっぱり、愛を伝えるのが一番なんじゃないかな』
 真面目な口調ながらも、笑っているのがわかる。
「愛?」
『そう。加納くんが彩華ちゃんをどれだけ好きかっていうのを示すの。そしたら彩華ちゃんも安心するわよ』
「普段、赤井君が一ノ瀬君にしているみたいにかい?」
『え。そ、それはあ……』
 うろたえて顔を赤くしているのが目に見えるようだ。素直な反応が可笑しい。
「いや、すまない。冗談だ。忘れてくれ。とにかく、相談に乗ってくれてありがとう」

「はは、愛、か……」
 電話を切った後加納は脱力して、ベッドに仰向けに倒れこんだ。携帯を傍らに放る。時計を見れば、もう零時を過ぎている。普段ならとっくに寝入っている時間だ。夜更かしは、何より美肌の敵なのである。
 それにしても、一体どうしたものだろうか。この上なく的確なアドバイスを貰ったというのに、どうすれば良いのか皆目見当がつかないのだ。
普通の男子高校生なら仕方がない、と加納は思う。しかし、加納はそうではない。「愛」は加納のモットーとするところであるし、付き合い始めてから何度となく彩華に愛の言葉を囁いてきたというのも事実だ。極簡単なことのはずなのに、それができそうにない。愛している、と言ったぐらいでは彩華は納得しないだろう。無理矢理抱きしめて、キスしてしまう? できなくはないだろうが、そんなことはしたくない。力ずくで彩華の心をものにするようで、嫌だ。
ああ、もう面倒くさい。加納は頭を抱える。そして、はっと気づく。なぜ、なぜ僕は面倒くさいなどと。
そこにあると知りながら、ずっと目を逸らし続けていたものを、無理矢理見せられているような気分だった。やはり自分も、恋愛を遊びと同じように捉えているその辺の高校生と同じなのだ。松崎彩華を本当に愛してなどいないのだ。彩華を、加納譲の彼女という、数多いる女性といくらでも取り替えのきくポジションに、現在進行形で座らせているだけなのだ。
作品名:Second declaration 作家名:スカイグレイ