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不味いタバコ

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不味いタバコ


姉はタバコが似合う女性だった。
一日一箱、多いときは三箱も吸うくらいヘビースモーカーな姉は、私の理想の女性であり、憧れだった。
「タバコ代とか、馬鹿にならないんじゃないの?」
「大学の教授とか、バイトの先輩がカートンで買ってくれるから、平気」
 手のひらに乗せられるくらいのサイズの東京タワーが見えるベランダで、百円ライターでタバコに火を付ける姉を見ながら、私は聞いた。
「そんなに吸ってたら、肺も真っ黒になっちゃうよ」
「心は白いままでいられるから、いい」
夜景に視線を移す私の視界に、さざ波のような煙が流れた。セブンスターの独特の香りが漂った。

年子の私たち姉妹は、都内の大学に進学するために二人とも上京した。先に大学に進学して一人暮らしを始めた姉のアパートに、一年遅れで同じ大学に入った私は姉と一緒に住むことになった。理由は単に「その方がお金が安いから」だった。昔から姉と仲の良かった私は一人で暮らす方が心細そうだったので、都合がよかった。
姉は大学に入ってすぐにタバコを吸い始めたらしい。中学や高校生の頃は、夜にタバコを吸っている母を見て「女らしくない」とか「不潔だ」等と言っていたのに、今はそんな母よりも高いタールのものをいつも吸っている。

姉のタバコを吸う姿を見たのは、一緒に暮らすようになってからだった。
「姉さん未成年でしょう? 学校にバレたら、停学になっちゃうんじゃないの?」
「そんなことを注意する暇が大学側にあったら、サークルの勧誘飲み会を中止させた方がいいよ」
まだ大学に入ったばかりの私には、姉の言ったことはよく分からなかった。

姉は基本的にベランダでタバコを吸うが、天気や気温によっては部屋の中や、台所の換気扇周りで吸うこともあった。
部屋はタバコ臭くなるし、非喫煙者の私も副流煙で害を受けてしまうのだが、タバコを吸っている姉を見ると、そんなことどうでもよく思えた。
タバコを片手に持ちながら、ベランダの柵に寄りかかる姉は、女の私から見ても魅力的だった。キスをするときのように少し窄めた唇から流れる煙が、東京の夜を姉の魅力で覆っているように見えた。切なく灯る火が、目を細めながら誰かを想う彼女の顔を照らした。短くなったタバコを、我に返ったように灰皿に押しつけて火を消す姉を見て、私はいつも寂しさを感じた。

作品名:不味いタバコ 作家名:みこと