恋の掟は冬の空
窓越しの陽射しで
「クリスマスに退院だともっとうれしかったんだけどなぁ」
残念そうな直美が空を見上げていた。
「でも、ま、年内だから良しでしょ」
「うーん そうだね。しょうがないか・・来年は二人でクリスマスね。約束ね」
大きな目で見つめられていた。
「月曜日と、火曜日はバイトを授業の後入れちゃったから、今度来るのは水曜の23日だからね。夕方だけど来れるの・・・なにか必要なものあったら帰るまでに考えといてね」
「うん。でも、たぶんこれといってないと思うけど」
「洗濯物は後で出してね。忘れちゃうから・・」
「うん。でも、外って気持ちいいんだね。久々だから、なんか空気おいしく感じる。新宿なのに・・」
「あー 足が治ったら、どっかに旅行いこうよぉ・・もっと空気がおいしくて、景色が綺麗なところ・・ねっ。どれくらい経ったら大丈夫かなぁ・・春なら大丈夫だよね・・春休みに行こうね、劉」
「暖かいところが、いいなぁ・・場所は考えといてよ・・直美が」
「私は、劉と一緒にお散歩できればどこでもいいのよ・・手つないでね」
いつもの 恥ずかしそうな顔だった。
「ま、直美が決めてよ。俺、そういうの全然わかんないから・・」
直美は、うんってうなづいていた。
「ね、もう中に戻ろう。冷えて風邪ひいちゃって寝込んで退院延びちゃったってなったら、困るから・・」
「直美もね、風邪ひかないでね。じゃぁ 戻ろっか」
一緒にベンチから腰を上げていた。
さすがに12月にしては暖かな日だったけど、じっとしているとやっぱり、寒くなってきていた。
100m歩いてまた、病院に戻ると中はやっぱり暖かで、いつもの病院の香りがしていた。
指先は綺麗なハンカチで包まれていた。
「わー 窓際になったんだぁ・・ あ、ベッドに座ってもいいかなぁ・・劉」
二人で病室に戻っていた。今日の朝に窓際のベッドの人が退院したからお願いして、そこにベッドごと移動してたから、陽射しが暖かだった。
新しい入院患者さんが今までの俺のベッドの位置にだった。
「うん。よかったらお昼寝でもしちゃえばぁ・・直美、今日は早起きしたんでしょ」
「そうでもないけど・・うーん。でも、どれどれ」
言いながらベッドに乗って横になっていた。
「ふーん、こんな景色かぁ・・」
寝ながら天井を見ながら外の窓を見ながらだった。
「やっぱり、ちょっと寝ようかなぁ・・寝ちゃったらごめんね、でも、あんまり寝てたら起こしてね・・」
「うん。ま、ゆっくり寝なよ」
俺はベッドの空いたスペースに腰をかけていた。
「そばに、居てよねー」
やっぱり、布団から手を少し出してきたから、かるく直美の左手を握っていた。
しっかりしてる子なのに、俺と二人っきりだと不思議と少し甘えん坊だった。
しばらくそれから小さな声でたわいもない話をしてたけど、静かになったと思ったら寝息を立てていた。
大学とケンタッキーのバイトとお見舞いがずっとだったから、疲れているに決まっていた。
直美を起こさないように、そーっと握られていた手を離して、車椅子に座り直して本を静かに読むことにした。
もうすぐ3時になろうとしていた。
「失礼いたします。お邪魔いたします。劉ちゃんいるかしらぁ・・あらぁー 間違えちゃった。ごめんなさい」
昨日まで俺のベッドがあったところからの声だった。あわてて カーテンを開けて顔をだすと、赤堤の叔母だった。
「やだー ベッドの位置変わったのねぇ。ごめんなさいねぇ」
叔母はまだ、間違えたところに頭を下げていた。
「こんにちわ。すいません。無理言っちゃって・・叔母さん」
「いいのよぉ こっちこそなかなか来れなくて・・ごめんなさいねぇ・・直美ちゃんが良くしてくれるみたいだから 邪魔しちゃ悪いかなぁって思ってね。今日は直美ちゃんは、まだなの・・」
声を出さずに 首を横に振って指を寝ている直美に向けていた。
「あら、寝てるのね」
叔母の小さな声だった。
「よく 寝ちゃったみたいです」
俺も小さい声で答えていた。
叔母には頼みたい事があったので忙しいとは思っていたけど、日曜か月曜日にでも来てもらえないでしょうかってお願いしてあった。
「で、用事ってなにかしら・・なんか困った事でもあるの・・」
静かな声で聞かれていた。
「少し 、あっちでいいですか・・ロビーでも」
まだ、直美はぐっすりと寝ているようだった。
叔母がうなずいたので、カーテンを閉めて移動することにした。
忘れそうになった本を持って叔母の後ろを歩いて、込んでいたロビーの席に腰を下ろす。ことにした
「なんか、あったの・・」
電話で具体的なことを言わなかったから、心配そうな顔で聞かれていた。
「ごめんなさい、 そんな事じゃなくて買い物頼みたいだけなんですけど・・」
「あらー なんだ、そんな事なの・・余計な心配しちゃったかしら、私」
笑顔に戻った叔母に言われていた。
「これ、何ですけど・・」
持って本の印をつけたページを叔母の前に広げていた。
さっきまで悩んでいたけど、これがいいやって5分前に決めたばかりだった。
「これを 買えばいいの?あ、なるほどね・・そういうことかぁ・・」
「はぃ すいません。で、悪いんですけど、叔母さんの家で預かってもらえませんか・・1週間ぐらいでいいですから・・」
「はぃ はぃ 大丈夫よ。でもね 劉ちゃん、叔母さんこれってどこで買ったらいいかがわからないわぁ・・」
「えっと、ここに取り扱い店ってお店の名前と電話番号がでてるんですけど・・お願いできませんかぁ・・」
自分で電話したほうがいいかなぁって少し考えていた。
「あら、駅前のデパートでも大丈夫なのね。だったら今日帰りに寄るから大丈夫よ」
本を見ながら、元気な声の叔母だった。
「いいわねー これ・・」
本を眺めながらうれしそうな顔だった。
「すいません。くだらないことお願いして・・」
「あらー くだらなくないわよ」
笑顔で叔母は答えてくれていた。
「これでお話は終わり?」
「はぃ」
「だったら、直美ちゃん目を覚まして、劉ちゃんいなかったらかわいそうだから、もう戻ってあげて・・叔母さん、このままデパートすぐにいって来るから・・ねっ」
いいながらもう席を立っていた。
「はぃ ありがとうございます。退院なんとか年内にできそうですから・・いろいろありがとうございました」
「そう よかったわねー 退院の日は車出させるから決まったら電話ちょうだいね」
「はぃ、あー お金なんですけど立て替えてもらってもいいですかぁ・・あとでちゃんと払いますから・・」
「はぃはぃ 要らないわよっていうところだけど、これは言えないなぁー うん。立て替えておきますね 劉ちゃん」
「ありがとうございます。取りに行く時に払いますから。バイト代ためたお金ありますから、大丈夫ですから」
わかりましたって叔母はうなづいていた。
「じゃぁ この本預かってっていいのよね」
「はぃ すいません」
「じゃぁ、がんばって買ってきますね」
なぜか、ほんとにうれしそうだった。
本を抱えた叔母をエレベーターまで見送った。
不思議だったけど、やっぱり うれしそうだった。
病室のベッドに戻ると直美はまだ寝ているようだった。
ただ、まぶしかったらしくて、布団の端を顔にかけていた。