恋の掟は冬の空
日曜は楽しくいそがしく
「あー おいしかったぁ・・」
直美でもなく俺でもなく夕子だった。
結局、ちゃっかり車椅子を寄せていろんなものをつまんで食べていた。
「もういいの夕子ちゃん・・まだ食べてもいいよ・・私はお腹いっぱい。劉は?」
「俺も、すんげー食べたぁー ごちそうさまでしたぁ」
「私もさすがに、さっき、お昼食べちゃったから・・もうお腹いっぱいです」
夕子は病院のお昼を食べていたはずなのに、直美のお弁当もけっこう食べていた。
「ほんとに ごちそうさまでした」
「いいえー また一緒にたべようね。夕子ちゃん」
残ったお弁当を片付けながら、にっこりと話していた。
「残しちゃったなぁ ごめんね」
「ううん。もともと どう見ても食べきれない量だもん。ちょっと作りすぎちゃった・・」
お腹いっぱいの笑顔だった。
「あれー 夕子ちゃんもご馳走になったのぉー あーぁ お弁当終わっちゃったのかぁ・・」
寧々ナースが夕子の車椅子の後ろまで来ていた。
「また、遊んでるんですかぁ・・」
「遊んでるんじゃないわよ、柏倉くん、お昼休憩です」
はっきりした口調だった。
「これからですか お昼?まだなら、お弁当がいっぱいまだあるんですけど・・どうですかあ・・」
直美が元気な声で寧々ナースに声をかけた。
「うそー さっきのまだ残ってるんだぁ・・ほんとにもらってもいい?」
「ほんとうは 残ってないかなぁって 顔をだしたんですよね、そうでしょ寧々さん?」
夕子が見上げながら笑っていた。
「うーん。当たり」
寧々ナースも直美も夕子も俺も全員で笑っていた。
「では どうぞ・・お茶入れてきましょうか・・」
直美が席を立ち上がりながらだった。
「あ、ここでは食べられないのよ。怒られちゃうから私たち・・」
どこにあるのかは知らなかったけれど専用の休憩室があるらしかった。
「へー そうなんだ。あ、全部もってってください。他の方にもよかったら食べてもらってください。お腹いたくなったりはしませんから、大丈夫ですから」
直美は座りなおしてお弁当をまとめだしていた。
「ほんとー ありがとうー 」
「いえいえ、その代わり綺麗に全部食べちゃってくださいね」
「休憩室でみんなでわけちゃうから あっというまになくなっちゃうわよ」
ほんとうにうれしそうな寧々ナースだった。
「では どうぞ」
直美は持ってきた手提げ袋に綺麗にお弁当を戻していた。
「ありがとう。なんかいつかお礼するね、直美ちゃん」
「いいですから そんな事は こっちこそ助かります」
「柏倉くん いい子彼女だわ・・」
寧々ナースは、余計なおべんちゃらを言いながら、休憩室に足を向けていた。
「寧々さんって 私より一つしか歳違わないんだよねぇ 偉いなぁ・・すごく大人に見えるね」
「なんかさ ナースっていつ寝てるんだからわかんない時あるもんなぁ・・
日勤で働いたあとに、深夜勤務とかって俺できないやー」
「そうだよねー すごいよねー」
二人で本当に感心していた。
「私から見ると 直美さんも柏倉さんも素敵な大人ですけど・・。歳は一つしか違わないのに・・」
夕子が静かな声でこっちを見ながらだった。
「そんなことないよー 私が高校生だったときより夕子ちゃんしっかりしてるもん」
「そうかなぁー 全然自信ないけど・・」
「そんなことないよー 夕子ちゃんも高校3年生にしては、大人だって・・」
夕子は首をかしげて、どうかなーって顔だった。
「あっ ごめん コーヒーにしようか 劉・・夕子ちゃんも飲むでしょ・・」
「うん ごめんね・・」
夕子も、はいって頭を下げていた。
「じゃぁ ちょっと入れてくるね」
「すいません お邪魔してるのに・・なんにもしなくって」
「いいのよ 楽しいの好きだもん」
直美らしかった。
「あっ 夕子ここにいたの」
夕子のおかーさんだった。何度か見かけたことがあった。
「おかーさん 早いじゃない」
「夜に用事出来ちゃったから、・・あ、いつもすいません」
おかーさんに頭を下げられていた。
「いいえ、こちらこそ」
ありきたりの返事しか口にでなかった。
「おかーさん いつも勉強教えてもらってる直美さんね」
おかーさんの後ろにコーヒーを持って戻ってきていた直美を紹介していた。
「初めまして いつも夕子がお世話になっているそうで・・英語を教えてもらってるそうで、すいません」
「いえー 夕子ちゃん勉強できますから・・お世話なんかしてませんからぁ・・」
カップを並べながら明るく答えていた。
「柏倉さんの 彼女なの・・」
俺のほうを見ながら説明だった。
「そんな言い方おかしいでしょう・・」
「え、だって そうなんだもん」
おかーさんは まったくって顔で夕子を見ながら俺と直美には、すいませんって頭を下げていた。
「コーヒーお飲みになりますか・・」
まだ、直美の隣で立っていたおかーさんにだった。
「あ、いえいえ、結構ですから、そんな」
「いえ すぐに持ってきますから」
言い終わると直美は小走りでコーヒーの用意をするようだった。
「座ってください、すぐですから・・」
「ほんとにすいません」
遠慮がちのおかーさんだった。夕子は長女らしかったので、若いおかーさんの印象だった。
「大事な用ってなーに おかーさん・・」
「ほら 志望校の事で先生に聞かれたから・・その提出があさってまでなのよ・・受験するところを教えてくださいって・・」
「それなら この前紙に書いて渡したじゃない・・」
「そうなんだけど・・あら、すいません こんな話・・あとでお部屋でね・・」
俺に頭を下げていた。
「いえ、平気ですから・・」
「柏倉さんも、現役で大学でしょぉ、直美さんだったかしら・・直美さんの大学にどうしてもいきたいらしくて、この子・・」
「大丈夫でしょ、夕子さん ちゃんと勉強してるみたいですけど・・」
「まったく こんな時期に入院なんかしちゃったから・・」
ちょっと、ため息まじりのおかーさんだった。
「すいません お待たせしちゃって・・どうぞ」
戻ってきた直美がおかーさんの前にコーヒーを差し出していた。
「すいません ほんとに・・」
「ここでもいいよ おかーさん 話ってなによ・・」
「う、うーん。あのね 受験するのもう少し増やさないかしら・・この前もらったのだと2つだけなのよねー ほら少なくないかしら・・」
試験を受ける数だった。
「あのー 変な事を聞きますけど、直美さんはおいくつ受けたんですか・・」
「えっと 3校ですけど・・」
思い出しながらの顔だった。
「柏倉さんは どれくらい受けたんでしょうか・・」
「えーっと 俺は頭悪いんで、6校も受けちゃいました」
恥ずかしかったけど正直に言っていた。
「ほらー 2つだけ受験って少ないと思うのよねー。おとーさんも もう少し受験したらどうだって言うし・・」
「うーん だって行きたい所ないんだけどなぁ・・」
夕子は考えながら口に出しているようだった。
おかーさんは、ちょっと困った顔をしていた。
「夕子ちゃん、きちんと、おかーさんとお話して。私たちちょっとお散歩してくるから、ねっ」
直美が丁寧に夕子にだった。
「うん。お散歩してくるね。だってデートだから これでも、俺たち・・」
うんって、直美も顔でうなづいていた。