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彼女こそは最終兵器

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 仙崎が振り返ると視界が比喩抜きで真っ白になった。
 いや。
 振り返ると身長が優に二メートルを超えているであろう、頭に包帯とその上に鉢巻を巻いた大男が板前の格好をして瓶ビールの箱を片手に立っていた。
 ギョッとする仙崎に、大男は低い声で言う。

「……お客さん、ちょっと詰めてもらえますか?」

 指を!? と反射的に思うが、単に自分が出入りの邪魔になっているだけだと気付き、あわてて店に入る仙崎。大男は軽く頭を下げると、店の奥に入っていく。
「店長、これは?」
「まっつんお疲れー。厨房に置いといてー」
 うす、とまっつんと呼ばれた大男は、飛び交う寿司をかわしながら店員以外立ち入り禁止の区域に入っていく。
「オキャクサン、オスキナ、セキニ……」
「今普通に日本語話してたよな!?」
 仙崎のツッコミにハッと口を押さえる店主。
「ナ、ナンノコトカナー?」
「……あくまでもしらを切る気なのか。ならこちらにも考えがある」
 そう言って、仙崎は店主をものすごく冷めた目で見つめ始めた。
 沈黙することたっぷり三十秒。

 店主の顔が半泣きになった。

「だってだって! そういうキャラの方がいいって、淡嶋クンが昨日いってたもん!」
「テメェが元凶か動縁!」
 桃色パッツン幼女に指差され、友人に睨まれた淡島は不敵な笑みを漏らす。
「いかにも、我こそがすべての元凶だ」
「そのノリはいいから理由を言え!」
「だってだって! こっちの方が可愛いと思ったんだもん!」
「お前がそれをやるな死ぬほどきもい!」

 閑話休題。
 ようやく二人は四人掛けのテーブル席についた。
「店主のキャラとかはどうでもいいんだ」
「どうでもいい!? シドーちゃんは分かってない! 片言言葉の幼女に一体どれほどの価値があるか……」
「むしかえすな! 俺が知りたいのはこれのことだ!」
 びしぃ! と真上の握り寿司を指差す仙崎。淡島はああ、と頷いて。
「それ、なんか、えーとネバスチャ……とかいう異星魚らしい。昨日食ったけど、あっさりしてて中々に旨かったぜい」
「へー、じゃあ後で食ってみよ……って違うっての!」
 ナイスノリツッコミ、と淡島は親指を立てるとネバスチャ握りの皿を掴んでテーブルの上に置いた。なんか紫色のネバスチャ握りに醤油を垂らしつつ、ようやく説明を始める。
「Pプラネットってのはシドーちゃんも知ってるよね」
「当然だ」

 仙崎の脳裏に現社の授業で習ったことが浮かぶ。
 今から二十年程前に、大量のUFOが地球にやってきた。
 あまりに突然だったため警戒も何もあったもんじゃなく、あっと言う間に世界の主要都市の上空には数多の未確認飛行物体が肉眼で確認できるようになってしまった。

 UFOのいる場所が場所だけにミサイルを撃つことも出来ず、バズーカ等の弾は着弾しても木端微塵となるだけで何の用も成さず、カミカゼよろしく特攻を仕掛けるも機体は衝突寸前で停止し、前にも後ろにも上にも下にも行かなくなる。
 もはや人類の歴史の終幕か、と思われた時、UFOから大音量でクリアな音声が聞こえてきた。

『地球のみなさん初めまして。お友達になりませんか?』

 宇宙人の話ではどうやら侵略目的ではなかったらしい。たまたまこの近くに立ち寄ったら生命反応を感知し、挨拶しようとしたはいいが、あまりに国と言語の種類が多すぎてどこにどの言語でどう伝えればいいのか分からず、とりあえず強行策に出たらしい。
 それでもなんとか作戦を伝える言葉を解析し、挨拶をしてきたらしかった。
 どうやらPプラネットという惑星からきたらしく、その後交流を開始。Pプラネットは科学技術を、地球は芸術品や軽工業製品などをそれぞれ出荷している。

「つまりPプラネットの科学技術で作られた皿は空を飛ぶのか?」
 確かに空飛ぶ円盤を作れるなら、空飛ぶ皿ぐらいわけないだろう。
「いーや、違うよん。皿自体は地球の百均に売ってたプラスチック皿らしい。これはPプラネットの科学じゃなく、Pプラネット人――――つまりあの幼女店主の生まれつき持ってる『超科学』だぜい」
 ま、わかりやすくいうと、とそこで淡島は言葉を切って、

「超能力ってやつだぜい」

キメ顔でそう言ってネバスチャ握りを口に入れた。
作品名:彼女こそは最終兵器 作家名:一一