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彼女こそは最終兵器

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一般に序章と呼ばれるもの


 教壇に立っている教師のホログラムいわく、地球上の温暖化や砂漠化とかいった環境問題は少年・仙崎志道《せんざきしどう》が生まれる少し前に全て解決してしまったらしい。
 本日最後の科目かつ最大の難関である現代社会を、奇跡的に寝ずに過ごしている仙崎は授業中にも関わらず、思わずこう呟いてしまった。
「適当すぎねえ?」
 言った後で慌てて口を塞いだが、もう遅い。ブーッという警告音とともに彼の机代わりのディスプレイに大きな赤い文字が表示された。
 『私語、減点一』と。
「おい仙崎。発言はアイコンをクリックしてからしろ、といつも言っているだろ」
 教師のホログラムがそう言って空中にあるボタンを押すような仕草をする。
 表示されていた赤い文字が消え、画面が戻る。画面の上半分にはノート代わりのワードソフト(しかしながら何も書かれていない)が、画面の下半分にはキーボードが表示されている。そのさらに下には様々なアイコンが表示されていた。ようはタッチパネル式のディスプレイにパソコンの機能を一通り詰め込んだようなものだ。

 ずいぶん便利になったものだ、と仙崎はアイコンに触れながら思う。
 彼が今表示させたのは現代社会の教科書ファイルだ。そこには百年ほど昔の授業風景の画像が載っている。木の机に生徒が座り、教壇に生身の教師が立ち、名前に『黒』とあるのに色が緑色の黒板がある光景だ。
 仙崎は顔を前にむけて教室を眺める。木の机は平べったいタッチパネル式ディスプレイに代わり、生身の教師はホログラムに代わり、黒板が巨大ディスプレイに代わっている光景だ。教師は学校に来ずに自宅で多角式カメラに向かって教鞭をとっている。
 ここ五十年、正確に言うならば二十年の内に世界の科学技術は革新的な飛躍を遂げた。

 にも関わらず、授業終了のチャイムはキーンコーンカーンコーンと鳴った。どうやらチャイムの最終進化形はキーンコーンカーンコーンで決定らしい。
 もっと革新的なチャイムはないのかねぇ、と思いつつ仙崎は隣の席で寝ているクラスメイトの背中を強く叩いた。
「アビニョンッ!!」
 ここまで革新的な悲鳴はいらねぇな、と思いつつ個性的なクラスメイトをしげしげと眺める。
 確かに今の時代、髪型や格好で就職や面接で落とされる事は稀だ。だから別に髪染めようがピアスをしようが、大人が注意するようなことはない(そもそも大人がド派手な髪型をしている時代だ)。
 ただ、その事情を踏まえたうえでも、これは友人としてあんまりじゃないかと思う。
 短めの髪は前髪は濃い黄緑色で、それ以外は黄色という未成熟なバナナを思わせるような二色構成。この高校の制服は黒の学生服であったはずだが、なぜか袖口を残して上も下も真っ赤になっている。極め付けはピンクのフレームに大きな青レンズのサングラス。
 この色鮮やかな少年の名前は淡嶋動縁《あわしまどうえん》。縁の下で人知れず力を発揮できるようにという両親の想いのこもった名前らしいが、この容姿では縁の下にいようと即座に見つかるだろう。
「ひでーんじゃねーの!? かなりゴクアクヒドーなんじゃねーのシドーちゃぁーん!」
 もっとも容姿に関係なく目立ちそうな気もするが。
「帰るぞ動縁」
「ひでっ! 俺っちのセリフはスルーするん……あれ? スルー、する。スルー、するー。ギャハ★ダジャレかんせー!! ってうおい! おいてかないでよシドーちゃーん」
 さっさと先に行く仙崎を追いかける淡嶋。それがいつも通りの光景だった。
作品名:彼女こそは最終兵器 作家名:一一