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日出づる国

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 山から吹き下ろす風には冷たさが残っているが、タンポポやスミレなど、色とりどりの花が野原や山すそを彩っていた。みずみずしい若葉が一層明るさを増している。
 ウサギが草の間から顔をのぞかせていた。
 キツネがウサギを狙って忍び寄ろうとしている。
 風が優しく草をなでていく。

 ヨシカ、ヨン、ヨヨの3姉妹がその様子を見守っていた。
 口に含む主を失った乳房は、張り裂けそうな痛みを伴って乳汁が勢い良くほとばしり出た。やがてそれは治まっていったが、張り裂けそうな心の痛みは消えることがない。
 ヨヨに笑顔が戻ることはなかった。いや、すべての者は沈痛な気持ちでその時を待った。

 シュッ
 キツネがウサギを追い始めた時、坐っていたヨンの顔の横を矢が通り過ぎ、キツネを射抜いていた。
 ゆっくりと頭をめぐらし、矢が飛んできた方向を見た。
 そこにはヌ族の男と変わらぬヒトの姿をした、多くの男たちがいた。


「男は逃げたか、チッ、ヌ族の噂は聞いている。ヨウ、ヨシという優れた女が一族を率いていることもな」
「そなたらは、邑を滅ぼしてなんとする」
「オウ、ワレの王国を築くのよ。国を栄えさせていくには女に子供を作らせることじゃ。ここらの土地にはカラムシ(イラクサ)を植える。それで布が作れる」

 ヨシたちは布というもので作った纏いものを始めて見た。そして彼らの持つ弓矢や道具類を見て、観念した。


                     2010.12.20
作品名:日出づる国 作家名:健忘真実