窓越しランドスケイプ
男はもがいていたが、二人に羽交い絞めにされながら僕らの前から引きずられて消える。残されたのは僕と、まだ意識のぼんやりとした彩子、そして彩子を支えていた維人は今だ口を開こうとはしない。
「……帰ろう」
そう、呟くように、言った。―――恐らく、僕自身に向けて。
2
日差しが、部屋に注ぐ。それは同時に僕にも目蓋を通して目覚めを促す。反して身体はまだ眠り足りないのか、寝返りを打って光から逃れる。
が、そのまま体は一瞬浮き、床へと落ちた。
「―――っ」
頭から行かなかったのは僥倖だろう。しかし打ち付けた背中は容赦なく僕を目覚めさせた。
身体を起こして、ベッドに腰掛ける。僕の落ちた側とは反対―――壁に面している側には彩子が緩やかな寝息を立てて眠っている。昨晩、一人で家に帰すには心許なかったので、僕の部屋に泊めたのだ。意識がぼんやりとしていたから、何か薬でも飲まされたのかと思ったが、何のことは無くクロロホルムを少し嗅がされた程度だった。
チクタク、と。
時計なんて置いていないのに、そんな音が聞こえる気がする。否。事実、頭には鳴り響いている。
「ち。五月蝿いな」
毒づいても、音は鳴り止むことは無い。今日一日、付きまとってくるだろう。
小さく、溜息をつく。いつになろうとこの音には慣れない。それは僕自身が割り切れていないのか。それとも単に、そういうものなのか。それだけでも分かればまだ楽だと言うのに。
「ん……」
音に重なるように彩子の声が聞こえる。目を覚ましたようだ。
「あれ?あたし……」
彩子は目を擦りながら、身体を起こす。何もいつもとは変わりない様子で。
「……なんで?」
「何だ、覚えてないのか。ならとっとと帰ってくれ」
「いや覚えてるよ?でも、何で?」
ちっ、と一つ舌打つ。面倒な奴だ。
「僕が、お前を泊めたことか?……考えれば分かるだろ、ふつー」
「分からないから聞いているのよ。ほんとに貴方は要領を得ないわね」
「……はあ」
だから、泊めたくなかったのだ。それもこれも―――。
「維人が、僕の部屋に泊めろって言ったからだ。……もういいだろ。さっさと帰れ」
そう言うと、なんだかとてもうれしそうな顔をして、彩子は帰っていった。
「何なんだ……。どいつもこいつも……」
作品名:窓越しランドスケイプ 作家名:まーす。