パンドラの鍵
呪われた家
むせ返るような体臭に、身動きが取れないほどの人混み……。
貴之は昼下がりの山手線に揺られていた。
十分か十五分か五反田に到着すると、貴之は人垣の中からどうにか
抜け出しホームに降り立った。そして人に背を押されるような形で
自動改札をくぐり抜けた。
だがよくよく周りを見渡せば、この駅で降りた人は少なかったらし
い。
改札口一つのこぢんまりとした駅の中は閑散としていた。
―――東京都品川区東五反田四丁目三―十四
貴之はひとまず駅から出ると、地図で場所を確認して歩きだした。
……駅周辺の都内にしては小さな繁華街を抜けると、桜田道りをメ
インに立ち並ぶオフィスやマンションが現れる。
しかし一歩横道にそれると、そこは閑静な住宅街。
白金台の近辺だからだろうか、高級な佇まいが続く。
貴之は高低差の激しい地形に少々うんざりしながら、有馬教授の家
を探し始めた。
不自然なぐらいに静かな町だった。
それも人がいる故の静けさではなく、墓場を彷彿させる静けさ。
迷路のように入り組んだ路地に人影はなかった……。
真夏のうだるような暑さの中で、アスファルトの隙間から顔を出し
ている雑草達も気だるげだ。
貴之は額からしたたり落ちてくる汗を拭いながら、家々の表札を見
て回った。
同じ道を何度通ったことだろう。
何度確かめても、探しまわっても行き着く場所は――。
ここなのか……?