パンドラの鍵
「お兄ちゃん……」
突然、背後から声をかけられて、工藤貴之は思わず椅子から飛び上
がった。
「なんだ、おまえか。勝手に入ってくるなって言ってるだろう」
貴之はドアの前に妹、雅美の姿を見つけると、不機嫌そうに言葉を
吐き捨てた。
「だって…」
そう答える雅美は、今にも泣き出しそうな表情をしている。貴之は
そんな雅美を冷たく見つめながら、
「それで、用は?」
と、それだけ言うとくるりと背中を向け、再びパソコンの画面を眺
め始めた。
雅美はますます泣き出しそうな声で、
「お父さんが下へ来いって」
と、やっとのことでそう言うと逃げるように部屋から飛び出してい
った。
一人残された貴之はしばらくぼーっと画面を見つめていたが、やが
て狂ったように笑い始め、そうかと思うと次は涙を浮かべながら手
当たりしだいに物を投げ出し始めた。