パンドラの鍵
消 失
いつも見る夢がある……。
人間が誕生する以前、恐竜という生物がこの地球上に生息していた
頃、貴之は虫だったという夢だ。
夢なら夢でもっとましなものにしてくれればいいのに、毎回見る夢
の中で貴之イコール虫の設定は、変わることなく繰り返されてきた。
そして見るのは、あっけないほどの虫の一生。
視力は殆ど意味をなさず、貴之は嗅覚だけを頼りに獲物を探してい
た。
しかしこの日に限って、馴染みのある血の匂いになかなかたどり着
けず、貴之は飛んでいることさえ苦痛に感じ始めていた。
もう限界だ……。
貴之はふらふらと地上に向かって落下していく。
蚊の一生は短い。貴之の命の火も半分消えかけていた。
その瞬間、目の前に差し出された禁断の果実………。
貴之は藁にもすがる思いで針を突き刺した。
満たされる、どんどん満たされる。
貴之は生き延びるため、血液かどうかも分らない液体を吸い続けた。
憐れなものだ。その後の結末は……。