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遼州戦記 播州愚連隊

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「さすが醍醐将軍は話が早い。早速……」 
「まだなんとも言っていないけどな」 
 醍醐は満面の笑みの昌重を見ながらそうつぶやいた。昌重はその言葉に一瞬顔面に満ち溢れていた笑顔が途切れた。
「と……申しますと?人質でも取ろうと言うんですか?」 
 再び昌重の顔に笑みが戻る。元からそのことは覚悟してきている。醍醐には昌重の態度がそういうものに見えていた。
「つまらないことをするつもりは無いよ。ただこれだけは伝えてくれ」 
 そう言うとゆっくりと醍醐は立ち上がって昌重をにらみつける。
「勝手に死ぬな。まだこの国には人が必要なんだとな」 
 突然の醍醐の言葉に昌重はうつむいて自分の表情をどう作ればいいのか迷っているように見えた。


 動乱群像録 48


「いつまでこうしてりゃいいんだよ」 
 パイロットスーツの女性が目の前の盆栽を弄っている中年男性に声をかけた。
「そんなことを言っても仕方が無いじゃないの」 
 その隣で静かにお茶を飲んでいた和服の女性。その手元には薙刀が置かれていてその状況が緊迫したものであることを周りの近衛師団の兵士達にも思い知らせた。胡州帝国帝都、近衛師団駐屯基地。すでに兵士達とそれにかくまわれている西園寺家の人々が篭城を始めて二日が過ぎていた。各地で黙って盆栽を弄っている宰相西園寺基義公爵支持派の部隊が首都で動き出した清原派の動きに対応して決起したが、彼等は帝都ではなく反対側の南極基地攻略へと向かっていた。帝都は現在も清原派の部隊に占拠されていたが、西園寺支持派のゲリラ的反撃と士気の高い近衛師団に攻めあぐねているのが現状だった。
「赤松君が勝つかどうかだろうな……」 
 ようやく覚悟を決めて切った枝がどうにも形が決まらないことに気づいてうなだれながら基義がそうつぶやいた。
「勝つのか?じゃあ負けたらどうなるんだよ!」 
 叫ぶパイロットスーツの女性は西園寺要。基義の一人娘でそのパイロットスーツには胡州軍高等予科学校の三年生であることを示す徽章がつけられていた。
「まあ……縛り首か斬首か……康子さん。どれにします?」 
「そうね……斬首は腕がいい人ならいいけど」 
 お茶を飲み終えて留袖のすそをそろえながら薙刀の女性、基義の妻西園寺康子は淡々とそう答えた。
「死ぬ気かよ二人とも!」 
 地団駄を踏む要を気にしながら一人の連絡将校が走ってハンガーの奥に畳を敷いて暮らしている西園寺家の人々の前に頭を垂れた。
「閣下。準備ができました」 
「そうか」 
 士官の声に要を無視するようにして基義は立ち上がった。
「どこ行く気だ?親父」 
「ちょっと工作をね」 
 忌々しげに父を見上げる要に一瞥するとそのまま基義は連絡将校の後に続いてアサルト・モジュールの並ぶハンガーの出口へと向かった。
 父が去っても要はパイロットスーツのままうろちょろと落ち着き無く歩き続けた。
「要ちゃん」 
 一度足を止めるが康子の声にも耳を貸さずに再びぐるぐるとハンガーの片隅に置かれている多々身の回りを回り始める。
「要ちゃん!」 
 そう言うと突然康子の姿が消え、同時に要は足を払われたように後頭部から地面に叩き付けられる様に倒れこんだ。気がついた要の首筋に薙刀を突きつけている康子がそこに現れる。
「なんだ……いえ、すいません!お母様!反省しています!」 
 刃を向けて冷徹な表情を浮かべる母にさすがの要も反省したように叫んだ。康子はそれを見るとにっこりと笑いって再びたたみに座ってお茶を飲み始めた。その光景に周りの近衛師団の兵士達はあっけに取られる。明らかに康子は瞬時に五メートルほどの距離を移動していた。いや、目で見る限り移動していると言うよりワープでもしたかと言う速度だった。ただ康子が西園寺邸を脱出した時に清原派の一個中隊の警備部隊を瞬殺した話は聞いているのでなんとなく納得しながらもおびえて要達から距離をとるようになった。
 チタン合金の頭蓋骨の持ち主の要は平然と起き上がると静かにたたみに腰を下ろした。
「工作ったって……なんだ、叔父貴でも呼ぶのか?それともアステロイドのアメリカ海兵隊基地に連絡をとるとか……」 
「まだまだね、要ちゃんは」 
 康子は余裕の笑みで引き続いてお茶を飲み続けている。
「おいしいわね。新ちゃんのお茶はやっぱり最高」 
 義理の弟で姉の息子に当たる西園寺新三郎こと嵯峨惟基の名前を出したところで要は少しばかり首をひねった。
「叔父貴じゃ無いんだろ?親父が働きかけているのは」 
 そう言う娘に康子はお茶を入れてやった。要は素直にそれを受け取りそのままじっと茶の中を見つめていた。
「意思の強い人にはこういう場面では何を言っても無駄よ。相手を見て話をしないとね」 
 康子は悠然とお茶を飲みながらそうつぶやいた。


 動乱群像録 49


「なんで佐賀君は泉州の自衛軍に声をかけない!」 
 清原は各艦の司令を集めた会議で開口一番にそう叫んだ。急ごしらえの合同軍とあってその言葉に向ける指揮官達の反応はさまざまだった。
 同調して頷くのは半数にも満たない。まるで当たり前だと言うように冷笑を浮かべるもの、困ったような表情で周りを見回すもの、そして大きくため息をつくもの。否定的な反応に清原は深呼吸して周りを見渡した。佐賀の貴下の胡州軌道コロニー軍の司令達は多忙と言うことで出席すらしていない。その空いた席の隣には清原が信頼を置く羽州艦隊の指揮官である秋田義貞の姿があった。
「拙いですね。このままでは信州近海アステロイドベルトが戦場になります。一応宇宙に対応できる装備はありますが、あちらは艦隊戦のプロとして知られる赤松さん。苦戦は必至になりますよ」 
「それは……分かっているんだ。だけどなんでその入り口のコロニー自衛軍に影響力のある佐賀君がここにいないんだ!」 
 その清原の焦りを帯びた言葉に再び司令達から失笑が聞こえた。
 多くの司令達は清原の大義、烏丸公を報じる為にこの場にいるわけではなかった。多くは貴族制の維持が部下達の生活にかかわると言うことでとりあえず参加した者が多い。他にも毒舌で知られる西園寺基義に一泡吹かせる為や海軍に恨みがある陸軍指揮官などが集まっていた。結局彼等にとっては清原は当面担ぎ上げるだけの存在。自分達のリーダーとして認める存在ではなかった。
『これは勝っても意味が無いな』 
 秋田は周りを見回しながらそう思っていた。事実一番の精鋭部隊である自分達が下座に置かれ、出席の見込みの無い佐賀の席が上座の方に置かれていることに苛立ちを感じていた。所詮はどこまで行っても貴族制とそれに連なる利益を守りたいだけの保守勢力に過ぎないことが目に見えて分かって秋田はうんざりした顔で周りを見回した。
「清原君。一度佐賀君には申し入れをしておくべきじゃないかね?」 
 ざわめく中で堂々と立ち上がり口を開いたのは烏丸清盛陸軍大将だった。烏丸家の分家の出であり、子の無い烏丸頼盛に次女の響子を養子に出すという話はこの場にいる誰もが知っている話だった。他の将軍達もその声に頷く。
「それはどうですかね。下手に手を出せばあの御仁のことです。弟からの催促に乗っかって我々を攻撃してくるかもしれませんよ?」 
作品名:遼州戦記 播州愚連隊 作家名:橋本 直