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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 誠が振り向くとそこにいつの間にか嵯峨がいた。茜が厳しい視線をラーナに投げるが、きっちり鍵を閉めたと言うようにラーナが首を振る。そんなラーナの肩を叩くと嵯峨は歩み寄ってきた。
「なんだこれ?……吉田か。あいつからの情報は証拠に使えねえよ。司法関係者にとっては証拠性の無い情報は単なるデマだ、騙され……」 
「でもお父様!」 
 目の前の自分のかつての姿に苦笑いを浮かべる嵯峨。
「あの、法術暴走の……」 
「気にすんなよ。禿るぞ。それと俺等は司法官吏だ。証拠にならねえものはすべてデマ。そう考えるようにしておくもんだ」 
 誠に取り合うつもりも無いというようにそれだけ言い残すと、嵯峨はいつの間にか開いていたドアに向かう。そこにはアイシャとシャムの心配そうな顔がある。
「ああ、そうだ。茜よ。その報告書のことで秀美さんが重要な話があるんだそうな。冷蔵庫が空いてるからそこを使え」 
 冷蔵庫。保安隊の隊舎で一番セキュリティーのしっかりしたコンピュータルーム。そこを使うと言うことはそれなりの機密性の求められる会合であることを示していた
「分かりましたわ。ラーナ、行きましょう」 
 そう言うと目の前の画像を消して立ち上がる茜。
「ずいぶんと中途半端な話になっちまったな」 
 要の言葉に出口で立っていた嵯峨が目を向ける。
「要は気合だぜ。意識が勝ってれば暴走は起こらねえよ。俺の経験則だ、それなりに信用できるだろ?」 
 そう言ってそのまま嵯峨は隊長室へと向かう。
「ちょっと吉田さんが時間をくれってことだから今日の撮影はさっきので終わりよ」 
 入れ違いに顔を出してきたアイシャ。その顔を見て要は握りこぶしを固める。
「殴って良いか?カウラ、あいつ殴って良いか?」 
 アイシャをにらむ要。そして立ち上がろうとする要を目で制するカウラ。誠もなんだかいつもの日常に率い戻されたように苦笑いを浮かべる。
「捜査官!早くしろ」 
 アイシャを押しのけて顔を出した安城の言葉で茜が手を早める。
「あのう、要さん……」 
「分かったよ!とっとと部屋に戻るぞ」 
 そう言って後頭部に手を当てながら立ち上がってそのままアイシャ達の下へ向かう要。
「隊長のお墨付きだ。さっきのことは気にするな」 
 自分の言葉が何の慰めにもなっていないことを分かりながらカウラは言葉の無い誠の肩を叩いた。


 突然魔法少女? 27


「チキショウ!あと少し!ああ、今回はアタシのミスだ!」 
 要の叫び声がハンガーにこだまする。誠もカウラもそれぞれ05式のコックピットから身を乗り出してぶんぶんと腕を振り回して悔しがる要を見つめていた。
「そうね、あんたのミスだわね」 
「アイシャ!オメエだって進行プランを完全にランに読まれてたじゃねえか!」 
 ハンガーの真ん中にオペレーションシステムを模したテーブルに座ってアイシャがニヤニヤしながら要を見上げていた。タレ目でにらみつけようとした要にアイシャが大爆笑している。
「そう簡単に貴様等に追いつかれるわけにゃーいかねーんだよ。一応、東和陸軍アサルト・モジュール部隊の教導官を勤めてたわけだかんな」 
 そう言って一週間前に搬入された新型の07式(まるななしき)のコックピットから顔を出すラン。その姿は何度見ても小学生低学年のなりにしか見えない。
「ランちゃんの読みは凄いよね!完全に誠ちゃんを無力化なんて!」 
 元気そうに叫ぶとシャムはエースらしい白いパーソナルカラーの05式の右腕を伝って床に駆け下りる。
「それだけテメー等が神前に頼りすぎた戦術を立ててるってこった。ちゃんとテメーの世話も焼けねー奴は戦場じゃ邪魔になるだけだぞ」 
 そう言うとランもエレベータでシミュレーションの戦闘記録を取っているサラとパーラのところへと向かう。
「ったくなりはロリなのに……」 
 ぼそりと要がつぶやく。当然のように鋭い目つきでにらめつけたラン。
「おい、さっきは負けたのは自分のせいだって言ったな。じゃあグラウンド20週して来い!」 
 ランの目の前で「ロリータ」と「幼女」は禁句である。誠も軍事機密らしいので深くは詮索していないが保安隊実働部隊二代目隊長クバルカ・ラン中佐の幼い姿について口にするのは事実上のタブーとなっていた。技術部部長の許明華大佐との掛け合いから見ても、14年前の遼南内戦に参加していたことは分かっているので自分よりも年上らしいことは誠も知っていた。
「おい、アイシャ。おとといの続きは?」 
 ランがそう言ったのに誠は驚いていた。おとといまで隊全体を振り回して魔法少女モノなのか戦隊モノなのか、あるいはロボットモノかもしれない自主制作映画を作るべく走り回っていたアイシャが何も言わない。それはいかにも不自然だった。
 昨日は編集を買って出た吉田がずっと会議室のモニターに向き合って画面の修正作業をしていたと言う理由があるが、今日は吉田は暇をもてあましてセキュリティーチェックと称してアイシャの隣の椅子でじっと目をつぶって、電子戦に特化したサイボーグらしく脳裏を走るシステムのチェックを行っている。
「ふっ、さすがに積極的かつ強気な戦術を本分としているクバルカ・ラン中佐。隊長を追い詰めたのも頷けるわね。誰かと違って」 
「余計なお世話だ」 
 アイシャが不敵な笑いを浮かべながらそう言うと吉田がすかさず口を挟む。
「いやあ、そんなに力まなくても……」 
 つまらないものに火をつけてしまった。ランは慌ててそう言ったがすでにアイシャはギアを切り替えてオタクで痛い本性を現そうとしているところだった。
「知らねえよ、アタシは!それじゃあランニング!行ってきます!」 
「逃げるんじゃねーよ!」 
 ランニングと称してそのまま逃げ出そうとした要をランが押さえつける。誠とカウラは仕方が無いというようにすでにシミュレータの撤収を始めたアイシャを生暖かい目で見つめていた。
「正直最後はやっつけで書いたのよね」 
 端末のコードを抜きながらのアイシャの言葉。アイシャに逆らうのは無駄だと諦めている吉田もすでに首のスロットのコードを抜いて機材の山に放り投げていた。
「おい、やっつけなのかよ。まったくストーリーができたのは俺のおかげなんだぜ」 
 吉田はそうこぼすとシャムから紙コップを受け取る。シャムは奥から鍋を持って出てきた技術部の西高志兵長と紙コップを持ったレベッカ・シンプソン中尉からさらに紙コップを受け取る。
「おう、甘酒か。レベッカが朝から何やってるのかと思えば……」 
 半ば呆れながらランがテーブルに置かれた大きな鍋の蓋を開ける。しろいどろどろの甘酒がかぐわしい香りをハンガー一杯に拡げた。
「そんなことを言うとあげませんよ」 
 レベッカはそう言いながらいつの間にか吉田の後ろに列を作っていた整備兵達に甘酒を振舞い始める。
「しかし、こうしてみるともう冬なんだな」 
 その列の中にいつの間にかいたカウラがエメラルドグリーンの髪に手をやる。
「なんだ?人造人間でも風雅ってもんが分かるんだ」 
 要の言葉にそれまで隣の甘酒を覗き見ながら機器を片付けていたアイシャが立ち上がる。
「ひどい偏見!私達も一応人間よ!取り消しなさいよ!」