小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遼州戦記 保安隊日乗 番外編

INDEX|43ページ/73ページ|

次のページ前のページ
 

 グリンの声に顔をほころばせるシャムと小夏。
『じゃあおねえちゃんがキャラットサマーで私がキャラットシャムね』 
『なによそれ』 
 本心から呆れたような表情で妹役のシャムを見つめる小夏。
『名前よ!無いと格好がつかないじゃん!』 
 そう言って小夏の手を握り締めるシャム。それを見つめて無言で頷いている楓と渡辺に誠は明らかに違和感を感じたが、いつも楓の件で小突かれてばかりの誠は突っ込むのも怖いので手を出さないことを決めた。
『さあ……機械帝国を倒すんだ』 
 そう力の入らない口調で言葉をつむぐグリンを見つめるシャム。隣に立つ小夏はそんな妹役のシャムを不安そうに見つめる。シャムの表情にはどこかさびしげな影が見える。そして誠は引き込まれるようにしてシャムの言葉を聞くことにした。
『違うよ、それ』 
 ポツリとつぶやくシャム。突然音楽が流れ始める。悲しげでやるせなさを感じる音楽にあわせて遠くを見つめるように空を見つめるシャム。
「吉田さんの即興かな?」 
 彼女の涙に濡れる顔が画面に広がる。
『確かにグリン君が言う通りかもしれないけど。確かにあの魔女はグリン君の大事な魔法の森を奪ったのかもしれないけど……。でもそう言う風に自分の意見ばかり言っていても始まらないんだよ』 
『そんなことは……あいつは森の仲間を殺したんだ!そして次々と世界を侵略し……』 
 激高するグリンを手にしたシャムはそのまま顔を近づける。
『でもぶつかるだけじゃ駄目なんだよ。相手を憎むだけじゃ何も生まれないよ!』 
「やっぱり出た!お前はいったいいくつなんだ展開!」 
 誠が手を叩くが、さすがにこの誠には付いていけないというように楓と渡辺はそんな誠を生暖かい目で見つめている。
『理解しあわなきゃ!気持ちを伝え合えなきゃ!そうでないと……』 
『シャム!そんなのんきなことが言える相手じゃないんだろ?世界の危機なんだろ?』 
 そう言って魔法の鎌を構える小夏。
『アタシは戦うぞ!守るものがあるからな!姉貴とか親父とか……』 
 そう言って小柄なシャムの頭を叩く小夏。だが、釈然としない面持ちで手のひらサイズの小熊を地面に置くと杖を構えた。
『じゃあ、誓いを立ててください。必ず悪を退けると!』 
『ああ!』 
 小夏は元気に返事をして鎌をかざす。そしてそれにあわせるように杖を重ねるシャム。
『きっと倒してみせる!邪悪な敵を!』 
『いつか必ず分かり合える日が来るから!』 
 小夏、そしてシャムの言葉で部屋が輝き始める。その展開に目を輝かせる楓と渡辺。
「シャム先輩のアドリブか。アイシャさんが駄目出ししなかったけど……後で台本変更があるかもしれないな」 
 誠は画面の中で変身を解いて笑うシャムと小夏を眺めていた。そこに脇から突然声が聞こえた。
「なるほど……そうなんですか。さすが先輩は詳しいですね」 
「うわーぁ!」 
 誠はもう一人の部屋の中の存在、彼が忘れていたアンに声をかけられて飛びのく。
「そんなに驚かないでくださいよ……」 
 そう言って胸の前で手を合わせて上目遣いに誠を見上げてくるアン。脂汗を流しながらそんなアンを一瞥した後、画面が切り替わるのを感じて誠は目を自分の端末のモニターに戻した。
 場面が変わる。画面は漆黒に支配されていた。両手を握り締めて、まじめに画面を見つめる楓と渡辺に圧倒されながら誠はのんびりと画面を見つめた。誠の背中に張り付こうとしたアンだが、きついカウラの視線を確認して少し離れて画面を覗き見ている。
 画面に突然明かりがともされる。それは蝋燭の明かり。
「機械帝国なのに蝋燭って……」 
 さすがに飽きてきた誠だが、隣の楓達に押し付けられて椅子から立ち上がることができないでいた。
『メイリーン!機械魔女メイリーン!』 
「あれ?何で僕の声が?」 
 確かにその声は楓の声だった。渡辺も不安そうに楓を見つめる。
「ああ、吉田さんのことだからどっかでサンプリングでもしたんじゃないですか?」 
 あっさりとそう言うと誠は画面に目を映す。
 黒い人影の前でごてごてした甲冑と赤いマントを翻して頭を下げる凛々しい女性の姿が目に入る。
『は!太子。いかがなされました』 
 声の主は明らかに技術部部長許明華大佐のものだった。そして画面が切り替わり、青い筋がいくつも描かれた典型的な特撮モノの悪者メイクをしてほくそえむ明華の顔がアップで写る。
『余の覇道を妨げるものがまた生まれた。それも貴様が取り逃がした小熊のいる世界でだ……この始末、どうつける?』 
 誠はそんな楓の声を聞きながら隣で画面を注視している楓に目を移した。言葉遣いやしぐさはいつもの楓のような中性的な印象を感じてそこにもまた誠は萌えていた。
『確かにこの人なら女子高とかじゃ王子様扱いされるよな。さすがアイシャさんは目ざとい』 
 そんな妄想をしている誠に気づかずただひたすら画面にかじりつく楓。
『は!なんとしてもあの小熊を捕らえ、いずれは……』
 必死に頭を下げる明華。楓の声の影だけの王子頷いている。 
『へえ、そんなことが簡単にできるってのか?捕虜に逃げられた上にわざわざすっとんで帰ってきたオメーなんかによ』 
 突然の乱暴に響く少女の声。陰から現れたのは8才くらいの少女。赤いビキニだか鎧だか分からないコスチュームを着て、手にはライフルなのか槍なのかよく分からない得物を手にした少女に光が差す。そのどう見ても小学生低学年の背格好。そんな人物は隊には一人しか居なかった。
「クバルカ中佐……なんてかわいらしく……」 
「あのーこれがかわいいんですか?」 
 画面の中ではさっきまでこの部屋で文句をたれていたランが不敵な笑みを浮かべながら現れる。誠は耳には届かないとは思いながらすっかり自分の脇にへばりついて画面を覗き込んでいる楓にそう言ってみた。
『ほう、亡国の姫君の言葉はずいぶんと遠慮が無いものだな』 
 そう言ってそれまで悪の首領っぱい影に下げていた頭を上げると、皮肉をたっぷり浮かべた笑いでランを迎える明華。
「おっ!ここでも見れるのか?」 
 突然後ろから声をかけられてあわてて振り向く誠。そこには隊長の嵯峨がいつもの眠そうな表情で立っていた。
「ええ、まあ一応……西園寺さんが設定をしてくれましたから」 
 頭を掻く誠。嵯峨はそのままロナルドの開いている机に寄りかかると誠達の後ろに陣取ることを決めたように画面を見つめている。
「なんだかなあ」 
 誠はそのまま画面の中でお互いににらみ合う明華とランの姿を見ていた。
『亡国?忘れたな。アタシは血の魔導師。機械帝国の世継ぎである黒太子カヌーバ様に忠誠を誓う者。テメーのような小物とはスケールが違うんだよ!』 
 そう言って余裕の笑みを浮かべるラン。その手に握られた鞭をしならせて明華ににらみを利かせる。
『ふっ、ほざけ!』 
 明華はわざとランから視線を外してつぶやく。
『黒太子、カヌーバ様!アタシにグリンと言う小熊とその眷属の討伐の命令をくれ!』 
「あいつ本当にぶっきらぼうなしゃべり方しかできないんだな」 
 そう言いながら嵯峨はポケットからスルメの足を一本取り出し口にくわえる。
「あの、隊長。それはなんですか?」