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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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「いいね!それやろう!」 
 シャムは当然のように食いつく。
「おい、お前のロボットの案はどうしたんだ?」 
 呆れたようにマリアが口を開いた。彼女にはこの会議はまるで関心の持てないものだった。だが一応上官である嵯峨の面子を立てるくらいの気遣いは出来る。隣のリアナはニコニコと議事の進行を楽しそうに見守っているだけで頼りにならない。
「戦隊モノねえ。そうすると野郎枠が増えるけど……島田呼んでくるか?」 
 吉田のその言葉に急に表情を変えたのは意外なことに要だった。
「バーカ。うちの野郎は骨のあるのは本部に引き抜かれた明石のタコとシンの旦那くらいだぞ。シンの旦那は今は同盟機構軍教導部隊の発足準備で忙しいんだからそんな暇ねえよ」 
 その要の言葉に珍しく頷くアイシャ。
「そうね、男性が多い戦隊モノでは新しさが無いわね。誠ちゃんが黒一点で5人組なんてどうかしら?」 
 あくまでうれしそうなリアナにため息をついてあきれるマリア。
「キャストまで決めるのかよ。じゃあ……クラウゼ。貴様はどうしたいんだ?」 
 吉田が同じ階級の少佐だが選任と言うことと実力で上に立っているということを示すような投げやりな態度でそう言った。そんな吉田の態度に自信満々で口を開くアイシャだった。
「まず『萌え』と言うことでシャムちゃんは欠かせないわね。色は当然ピンク」 
「やったー!」 
 叫ぶシャムをめんどくさそうに一瞥した吉田はすぐにアイシャに視線を移す。
「そしてクールキャラはカウラちゃんでしょうね。ブルーのナンバー2っぽいところはちょうどいいじゃないの。それに影の薄い緑は誠ちゃん」 
「僕ってそんなに影薄いんですか?」 
 そう言いながら頭を掻く誠。さらにアイシャは言葉を続けた。
「そして黄色の怪力キャラは……当然リアル怪力の要!」 
「てめえ、外出ろ!いいから外出ろ」 
 そう言って指を鳴らす要を完全に無視してアイシャは言葉を続けた。
「なんと言ってもリーダーシップ、機転が利く策士で、カリスマの持ち主レッドは私しかいないわね!」
「おい!お前のどこがカリスマの持ち主なんだ?ちゃんとアタシに納得できるように説明しろよ!」 
 叫ぶ要を完全に無視してどうだという表情で吉田を見つめるアイシャ。
「なるほどねえ、よく考えたもんだ。もし神前の意見となったら頼むわ。それじゃあ……それでお前は何がしたいんだ」 
 吉田は彼女達のどたばたが収まったのを確認すると、半分呆れながらアイシャの意見を確認した。
「それは当然魔法少女よ!」 
「あのー、なんで僕を指差して言うんですか?」 
 アイシャはびしっと音が出そうな勢いで人差し指で誠を指しながらそう言い切った。
「おめー日本語わかってんのか?それともドイツ語では『少女』になんか別の意味でもあるのか?アタシが習った限りではそんな意味ねーけどな」 
 淡々と呆れた表情で突っ込みを入れるラン。
「ああ、それじゃあアイシャは『神前が主役の魔法少女』と」 
「あの、吉田少佐?根本的におかしくないですか?」 
 カウラはさすがにやる気がなさそうにつぶやく吉田を制した。
「何が?」 
「少女じゃねえよな、神前は」 
 同情するような、呆れているような視線を誠に送る要。
「じゃあ……かわいくお化粧しましょう!」 
 そう言って手を打つリアナ。隣のマリアは口を出すのもばかばかしいと言うような表情をしている。
「女装か。面白いな」 
「わかってるじゃないですか吉田君!それが私の目論見で……」 
「全力でお断りします」 
 さすがに自分を置いて盛り上がっている一同に、誠は危機感を感じてそう言った。
「えー!つまんない!」 
 シャムの言葉に誠は心が折れた。
「面白れーのになあ」 
 ランは明らかに悪意に満ちた視線を誠に向けてくる。
「……と言う意見があるわけだが」 
 吉田は完全に他人を装っている。
「見たいわけではないが……もしかしたらそれも面白そうだな」 
 カウラは好奇心をその視線に乗せている。
「かわいい誠ちゃんも見てみたいわね。ねえマリアちゃん」 
 リアナはうれしそうに、あきれ返るマリアに声をかけた。
 誠はただ呆然と議事を見ていた。
「やめろよな。こいつも嫌がってるだろ!」 
 そう言ってくれた要に誠はまるで救世主が出たとでも言うように感謝の視線を送る。
「魔法少女ならこいつ等がいいじゃねえの?」 
 要はそう言うとシャムとランを指差した。
「やっぱり要ちゃんもそう思うんだ」 
 そう言うアイシャは自分の発言に場が盛り上がったのを喜んでいるような表情で誠を見つめた。
「誠ちゃん本気にしないでよ!誠ちゃんがヒロインなんて……冗談に決まってるでしょ?」 
 ようやく諦めたような顔のアイシャを見て、誠は安心したように一息ついた。
「なるほどねえ……とりあえず意見はこんなものかね」 
 そう言うと吉田は一同を見渡した。
「良いんじゃねーの?」 
 ランはそう言うと目の前のプリントを手に取った。
「隊員の端末に転送するのか?」 
 そう言いながら手にしたプリントを吉田に見せ付ける。
「ああ、わかってますよ。とりあえずアンケートはネットで知らせますが、記入は隊長が用意したのを使った方が良いですね」 
「そうね、自分の作ったアンケート用紙を捨てられたら隊長泣いちゃうから」 
 吉田の言葉に頷くリアナ。
「隊長はそう言うところで変に気が回るからな」 
 頷くマリア。それを見てランがここにいる全員にプリントを配る。
「じゃあ、神前。お前がこいつを配れ」 
 そう言ってプリントの束を誠に渡すラン。
「そうだよね!誠ちゃんが一番階級下だし、年下だし……」 
「そうは見えないがな」 
 いたずらっぽい視線をシャムに送る要。そんな要の言葉にシャムは口を尖らせた。
「ひどいよ要!私のほうが誠ちゃんより……」
「じゃあ、配りましょう!」 
 口を尖らせるシャムを無視してアイシャは誠の手を取って立ち上がった。それに対抗するようにカウラと要も立ち上がる。
「おう、全員にデータは転送したぜ。配って来いよ」 
 吉田の声を聞くとはじかれるようにアイシャが誠の手を引っ張って部屋を出ようとする。
「慌てるなよ。それよりどこから配る?」 
「決まってるじゃないの!島田君のところから行くわよ」 
 そう言ってコンピュータルームを後にするアイシャ。誠はその手にひきづられて寒い廊下に引き出された。要とカウラもいつものように誠の後ろに続く。そのまま実働部隊の詰め所で雑談をしている第四小隊と明石を無視してそのままハンガーに向かった。
 身を切るような冷たい風が四人を包んだ。
「おーい、シュペルター中尉!」 
 アイシャは階段の上から一人で誠の機体を見ながらポテトチップスの袋を片手に和んでいる技術部法術関連技官であるヨハン・シュペルター中尉に声をかけた。
 その肥えすぎた巨体がアイシャの方を振り向く。
「ああ、これの件ですか?」 
 ヨハンはそう言うと左腕の携帯端末を指差した。
「そう、それ!」