小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遼州戦記 墓守の少女

INDEX|40ページ/74ページ|

次のページ前のページ
 

 そんな言葉が意識を引き回す。カネミツの速度は四式をはるかに凌ぐ。音速は軽く超えているらしく、振り返れば低空を進むカネミツの起こす衝撃波に木々がなぎ倒されているのが見えた。
「こんなに機動性上げる必要性あるのかねえ」 
 嵯峨はそう言いながらも速度を落とすつもりは無いようだった。
「見えた!」 
 嵯峨はそう言うと急制動をかけた。コックピットの重力制御能力は四式のそれとは比べ物にならないようで、嵯峨のくわえたタバコからの煙も真っ直ぐに真上の空調に吸い込まれている。
「さあて、まずは運動性能と装甲のテストかな」 
 そう言う嵯峨に地面からの対空ミサイルランチャーのものと思われるロックオンゲージが点滅する。
「今度は止まってやるから当て放題だ。やれるならやってみろよ!」 
 嵯峨の言葉に合わせたように針葉樹の森からミサイルが発射される。五発はあるだろうか、クリスの見ている前で嵯峨が操縦棹を細かく動かす。どのミサイルも紙一重でかわした嵯峨は、そのままミサイルが発射された森に機体を突っ込んだ。
「お礼だよ。受け取りな!」 
 対人兵器が炸裂する。そして森にはいくつものクレーターが出来ていた。
「おいおい、まだ状況がつかめて無いのかねえ。教導士官はアメリカさん?それともジョンブルか?」 
 そう言うと嵯峨はそのままカネミツを歩かせた。木々をなぎ倒し、進むカネミツに逃げ惑う民兵がアサルトライフルで反撃する。
「おいおい、逃げても良いんだぜ、って言うか逃げろよ馬鹿」 
 嵯峨はそのままカネミツを停止させた。しかし、なぜか嵯峨はそこで機体を中腰の姿勢に変えた。その頭上を低進する砲火が走る。 
「なるほど、対アサルトライフル砲の配置は教本通りだな。なら少し教育してやろう」 
 そのまま発射された地点へと走るカネミツ。森が開けた小山に築かれたトーチカ。そこに嵯峨はレールガンの銃口を突っ込んだ。
「ご苦労さん!」 
 一撃でトーチカは吹き飛んだ。そして嵯峨はそのまま山の後ろに合った廃鉱山の入り口を見据える。
「ここの教導士官は馬鹿か?まだアサルト・モジュールを出さないなんて。しばらく眺めてみますか」 
 嵯峨はそう言うとカネミツを見て逃げ惑う民兵達を後目にタバコをゆったりとふかす。坑道の一つからようやくM5が姿を現す。
「はい、そっちから撃てよ。そうしないとデータも取れねえ」 
 嵯峨の言葉を聞いてでもいるかのように5機のM5は左右に展開を始めた。
 カネミツはM5の展開を見て跳ね上がる。
「脚部アクチュエーターのパワーは十分か。それじゃあパルスエンジンの微調整を兼ねまして!」 
 上空に跳ね上がったカネミツの動きについていけない民兵組織のM5。ようやく彼らがモニターでカネミツを捕らえられるようになった時にはカネミツの左手にはサーベルが抜き放たれていた。
「まずは一機か?」 
 嵯峨のとぼけた声がコックピットに響く。クリスの目の前で、民兵のM5が頭から一刀両断にされる。
「次!」 
 そのまま剣は左に跳ねた。隣でレールガンを構えようとしているM5の腕が切り落とされる。
「あのねえ、同士討ちってこと考えないのかな?」 
 再び跳ね上がったカネミツを狙ったレールガンの砲火が腕を失った友軍機のコックピットを炎に包んだ。
「落ち着いて行けば、そんなことにはならなかったんだがな!」 
 叫び声を上げる嵯峨、滞空しながら残り三機の民兵側のアサルト・モジュールにレールガンの弾丸を配って回る。
「データにもならねえな。こりゃあしばらく試験を続ける必要有りかねえ」 
 そう言うと嵯峨はカネミツを着地させ、目の前に横穴を空けている古い鉱山跡の中に機体を進めた。クリスはただ呆然とその一部始終を見ていた。今、画面に映っているのは逃げ惑う民兵と技術顧問らしいアメリカ陸軍の戦闘服を着た兵士達だった。
「さてと、どこまで入れそうかね」 
 カネミツはゆっくりと坑道を奥へと進む。嵯峨は自動操縦に切り替えて、足元のコンテナからアサルト・ライフルを取り出す。
「カラシニコフライフルですか」 
 嵯峨は折りたたみストックのライフルをクリスに手渡した。
「AKMS。まあ護身用ってことでね」 
 嵯峨は立てかけてあった愛刀兼光を握り締めている。
「銃なんてのは弾が出ればいいんすよ。さて、自殺志願者もいないみたいですから、奥に行きましょうか?」 
 とぼけた調子で嵯峨は坑道の奥でカネミツを停止させて装甲板とコックピットハッチを跳ね上げた。
「さーて、逃げ遅れた人はいませんか?」 
 そう叫びながら嵯峨がアサルト・モジュールの整備に使っていたらしいクレーンを伝って地面に降りた。クリスはライフルのストックを展開して小脇に抱えるようにしてその後に続く。
「居ないみたいっすねえ。それじゃあお邪魔しまーす」 
 肩に抜刀した長船兼光を担いで、完全に場所を把握しているようにドアを開く。
「ドアエントリーとかは……」 
「ああ、そうでしたね」 
 クリスに言われて嵯峨が剣を構えながら進む。確かに嵯峨はこの訓練キャンプの内部の情報をすべて知った上でここにいる。クリスには中腰で曲がり角を覗き込んでいる嵯峨を見てそう確信した。ハンドサインで敵が居ないことをクリスにわざとらしく知らせると、そのまま嵯峨は奥へと進む。クリスも軍務の経験はあった。そして室内戦闘が現在の歩兵部隊の必須科目であることも熟知していた。そして何よりも嵯峨は憲兵実働部隊の出身である。室内戦などは彼の十八番だろう。クリスはそう思いながら大げさに手を振る嵯峨の背中に続いた。
 さすがに剣を構えるのが疲れたのか、鞘に収めて左手に拳銃、右手にライトを持って薄暗い坑道を進んでいく嵯峨。 クリスは二人が進んでいる区画が明らかに何かの研究施設のようなものであることに気づいた。
 一番手前の鉄格子の入った部屋をクリアリングする嵯峨。中には粗末なベッドのようなものが置かれている。
「見ると聞くとじゃ大違いだな」 
 嵯峨はそのままライトでベッドの上の毛布を照らす。毛布には真新しい弾痕が残り、その下から血が流れてきているのが見えた。
「死人に口無しってことですか?」 
 クリスがそのまま毛布に手を伸ばそうとするのを嵯峨は押しとどめた。
「なあに、もうすぐちゃんと喋れる証人のところに案内しますから」 
 嵯峨はそう言うと拳銃を構えなおす。そしてライトを消して、クリスに物音を立てないようにハンドサインを送った。数秒後、明らかに誰かが近づいてくる気配をクリスも感じていた。嵯峨は腰の雑嚢から手榴弾を取り出して安全装置を外す。外に転がされた手榴弾。飛び出す嵯峨の拳銃発射音が三発。そのまま部屋に戻ると爆風がクリスを襲った。
「大丈夫ですか?」 
 嵯峨はそう言うとそのまま廊下に出た。かつて人だったものが三つ転がっている。
「あんまり見つめると仏さんが照れますよ。行きましょうか」 
 そう言うと嵯峨は死体を残したままで彼の目的の場所に向けて走り出した。
作品名:遼州戦記 墓守の少女 作家名:橋本 直