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遼州戦記 保安隊日乗 5

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 突然の吉田の指摘。誠はその意味がわからなかった。要も別に吉田の言葉など聞こえないようにいろんな角度から着飾ったカウラのイラストを見ていた。
「ディフォルメするとどうしても僕の癖が出ちゃって……好きな作画監督の……」 
「違う違う!そうじゃなくてお前はこういうキャラのデザインをアイシャに頼まれなかったかという話」 
 吉田の言葉の意味がわからず呆然と立ち尽くす誠。だが、ようやくイラストから目を離した要は何か気がついたかのようににんまりと笑った。
「あれだよ!あいつが今度のコミケに出したいって騒いでた18禁のゲームあったろ?」 
 要の言葉で誠も吉田の言いたいことが少しわかってきた。高校生の主人公が魔族のヒロイン達を口説き落としてハーレムを作るという、いかにもありきたりなエロゲーの企画。確かにキャラクターを頼まれて描いたのは誠だった。
「そのメインヒロインがこれだ」 
 そう言って吉田は手の端末の画面を開く。
 青い髪を後ろにまとめた鋭い視線の女魔族。それと誠が描いたカウラの絵を重ねてみる。確かに顔の輪郭や雰囲気は見分けがつかないほど似ていた。
「はー……ええと」 
 言葉に詰まる誠。要は同情を込めて誠の肩を叩いた。
「でも……違うよな……って胸か!」 
 ぽんと手を叩く要。彼女の指摘のように豊かな胸の目立つ女魔族とカウラがモデルのドレスの美女。すぐにわかる違いはそこだった。
「そんなあからさまな……似たのだって偶然ですよ!」 
 そう言う誠だが、興味本位の要のタレ目の視線が誠にまとわりつく。吉田も頭を掻きながらその様子を黙ってみているばかり。
「まあ……こいつのタイプがこれってことだろ?」 
 あっさりとそう言って立ち上がる吉田。だがその瞬間ににやけていた要の視線が痛いものに変わるのを誠は感じていた。
 要はしばらく二つの絵を見比べている。時には感心したように、時には不愉快そうに微妙に表情を変える要にハラハラする誠。だがしばらくすると大きく息を吐いてうつむいた。
「おい、画像消すからな」 
 そんな言葉も終わらないうちに端末を閉じてしまう吉田。要は名残惜しそうな顔をしているが吉田はまるで関心が無いと言うように椅子から立ち上がった。
「じゃあ、挨拶済ませてくるか」 
 誠と要を残して吉田は階段を降りていく。
「なるほどねえ……そうなんだ」 
 静かな要の言葉にびくりと誠は震えた。そしてそのままカウラを描いたイラストと誠の顔を何度も見比べる。
「そんな……あくまでキャラですから!設定だってアイシャさんが作った奴だし」 
「別に気にしてないからな」 
 誠も言い訳を聞くことを拒絶するようにそう言うと要はそのまま出て行こうとする。誠もただ黙って見送るしかない。要の去った自分の部屋で昨日までは得意げに描いていたイラストを前に椅子に座って物思いにふける。
「そんなの気にすること無いじゃん」 
「うわ!」 
 背中からの突然の声に振り返った誠の目にシャムがりんごをかじりながら座っていた。きっちりと最近はトレードマークなんじゃないかと言うような猫耳を揺らしているシャム。
「いつからいたんですか!」 
「神前君がぼーっとし始めたころからかな」 
 そう言うとシャキリといい音を立ててりんごを齧るシャム。彼女の閉所作戦の隠密行動や市街地でのストーキング技術は誠も訓練で嫌と言うほど知っていた。明らかに気配を消すのはシャムの得意分野だった。たぶん吉田を迎えに来たシャムと出会った吉田と要が彼女に入れ知恵をしたのだろう。
 シャムはすぐに問題のイラストに目を向ける。
「へえ、素敵よね。まじめそうでどこか不器用な女の子。嫌いじゃないなあ、私は」 
 いつもの純粋そうな笑顔に誠もこわばっていた表情を緩めて小学生のようにも見えるシャムを見つめた。
「気にすること無いよ。アタシもけっこうキャラの描き分けできてるとは思えないし」 
「はあ、そうなんですけど」 
 自信が無さそうな誠の言葉に不満そうに口を尖らせるシャムが再びドレスのカウラを描いた誠のイラストをまじまじと見つめる。
「優等生キャラってことになるとカウラちゃんが頭に浮かぶんでしょ?なんとなくわかるよね」 
 再びシャムがりんごを齧る。
『降りてこいよ!』 
 要の声に誠は仕方なく歩き出す。
「大丈夫よ!」 
 なにが大丈夫なのかはよくわからないがシャムはそう言って誠の肩を叩いた。誠も情けない笑みを浮かべながらとりあえず朝稽古に集中しようと自分の部屋を出た。



 時は流れるままに 23


「おかわり!」 
 シャムに遠慮と言う言葉は存在しない。朝稽古を見学して、そのまま朝食を作る薫の邪魔ばかりしながら食堂をカウラに追い出された。その上、資料をめぐり討論していたアイシャと吉田からも邪険にされた。
 当然のように少し機嫌が悪かったのも十数分前までの話。茶碗に明太子を一腹乗せてもりもりとどんぶり飯を食べ終えて叫んだ。
「はい!シャムちゃんは本当に元気よね」 
 うれしそうな表情の母を見て誠は和んでいた。食卓にはアイシャと吉田の姿は無かった。なんでも東都警察からの情報提供があり、その内容をめぐって話があると言うことで客間で端末を眺めて議論しているところだった。
「辻斬りか……物騒な世の中だな」 
 すでに食事を終えて、デザートのヨーグルトまで平らげた要がポツリとつぶやく。アイシャ達が篭ったのを見て二人の端末にアクセスしてある程度の情報を得たのだろう。
「それはいつの時代だ?」 
 二杯目のどんぶり飯を海苔の佃煮をおかずに食べていたカウラが呆れたように要を見る。
「仕方ないだろ?ここ二ヶ月で16人。どれも一太刀で絶命。しかもどの死体にも財布もカードも残ったまんまで放置されてたって言うんだから」 
 言い訳する要。シャムのどんぶり飯を盛った薫が興味深そうに要達を眺めている。
「一太刀で人を斬るのは相当手馴れた証拠ですわね」 
 そんな薫の言葉に頷く要。誠も真剣で竹などを斬ることの難しさを知っているので頷かざるを得なかった。
「でもそれは警察のお仕事でしょ?要ちゃん達は休みなんだから気にしなくてもいいのに」 
 お気楽にそう言ってどんぶり飯に明太子を乗せるシャムに要は大きなため息をついた。だが、シャムに何を言っても無駄なのでそのまま黙って湯飲みを握っていた。
「あ!明太子もう無いの?」 
 とりあえずの打ち合わせを終えて戻ってきたアイシャが空の小鉢を見て叫んだ。
「へへーん!食べちゃったよ!」 
 得意げに叫ぶシャム。
「ああ、まだ箱に残ってたのがあると思うから」 
「いいです!おかずはちゃんとありますから」 
 立ち上がって冷蔵庫に向かう薫を押しとどめてアイシャはそのままいつも誠の父誠一が座っていた席につく。
「あれ?俺の座るとこは?」 
「床に座ればいいんじゃねえのか?」 
 要は立ち尽くす吉田にそう言ってのんびりと茶をすすった。
「じゃあ、こちらに……」 
 そう言って薫が椅子を動かした。誠もその意味がわかっていつもは踏み台にしている違う形の椅子を台所の奥から運んできた。
「じゃあ遠慮なく」