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遼州戦記 保安隊日乗 5

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 遼州同盟保安隊。司法実働機関として嵯峨惟基の指揮の下、実績を重ねている部隊のレクリエーション機関の存在があった。それは『アニメーション研究会』。会長はアイシャだった。
 コミケや近隣豊川市のアニソンイベントやプラモデルコンテストなどを牛耳るその組織。そこには人気絵師のナンバルゲニア・シャムラード中尉と神前誠曹長の活躍があった。
 今日はナンバルゲニア・シャムラード中尉は部隊での勤務と言う名目による執筆活動が佳境を迎えているところだった。もう残すところ一週間も無いコミケの原稿締切日。動物と仲良く遊ぶことが趣味の彼女は三日にわたり宿直室に監禁されて執筆を続けていた。だが、遼南の7騎士に序せられる彼女の身柄を確保することはアイシャのシンパでも不可能なことだった。
「なんだ?シャムが逃げたのか?」 
 突然の報ににやりと笑って顔を突き出す要。だが、アイシャはすぐに状況打開の策を編み出していた。
「アイシャ!」 
 カウラが声を出す暇も無かった。すぐに誠の腕を掴みそのまま重い扉を開く。
「アイシャさん……」 
 その行動で誠はシャムの抜けた穴を自分で埋めようとしているアイシャの魂胆を見抜いた。しかし、何が出来るでもない。要は完全にアイシャのさせるままにしている、カウラにいたっては立ち上がってアイシャの後に続いて開いたドアに続く。
「アイシャさん……」 
「大丈夫よ。マリアの姐御はきっとシャムをつきとめるわ」 
 そう言って誠の手を引いて廊下を進むアイシャ。気になったのか誠が見ている後方では要がニヤニヤ笑いながら付いてくる。
「車は私のでいいんだな」 
「お願いできるかしら」 
 誠の意思とは関係なく、アイシャとカウラの間で話がまとまる。その様子ににんまりと笑う要。
「シャムは毎年逃げてないか?」 
「まああの子にじっとしていろって方が無理な話なんじゃないの?」 
 そう言うとアイシャは訓練場の粗末な階段を降り始める。窓の外を見れば、この訓練場の本来の持ち主である東和陸軍の特殊部隊の面々が整列している様が見れた。
「ご苦労様ねえ」 
 そう言いながらアイシャは戦闘服のままの誠の手を引っ張って埃が巻き上がるような手抜き工事の階段を下りながら早足で歩き続けた。
 冬の弱弱しい日差しが屋内戦闘訓練場を出た誠達に降り注いだ。次の訓練予定が入っている東都警察強襲機動隊の面々が寒空の中、缶コーヒーを飲みながら駐車場で待機していた。
 男性隊員の視線が要に集まる。要は心地よいとでも言うように強調された胸のラインを披露しながら中性的に見えるカウラの後に続いていた。しばらく歩いていたカウラだが、あからさまな視線に飽きれて要を振り返った。
「あれ?隊長殿はそう言うことは気にはされないと思っていました……が?」 
 そんな挑発的な要の言葉に不機嫌になるカウラ。ようやくこの状況に気づいたように東都警察の部隊長の眼鏡をかけた女性指揮官が咳払いをしている。
「あ……あ?」 
 エメラルドグリーンのポニーテールを降りながらカウラの視線は女性指揮官に注がれた。
「エルマ……エルマじゃないか!」 
 そのままカウラはエルマと呼んだ女性士官に向かって近づいていく。誠も良く見ればその士官の髪がライトブルーでそれが遼州星系で起きた前の大戦の敗戦国ゲルパルトが製造した人造人間「ラストバタリオン」のものであることに気がついた。
「なんだ……カウラか」 
 女性隊長はそう言うと複雑な表情で近づいていたカウラの手を握った。
「おい、知り合いか?」 
「まあな」 
 そう言って手を握り合うカウラ。だが誠にはその二人の表情はどこかぎこちなく見えた。エルマの部下達も少し怪訝な表情で二人を見つめている。
「紹介ぐらいしろよ」 
 要の声に後ろから駆けてきたアイシャが頷く。それを見てカウラは驚いたようにエルマの手を離した。
「そうね。エルマ……エルマ・ドラーゼ警部補。東都警察だったな、所属は」 
「そうだが……これが噂の保安隊の人達か」 
 エルマの視線が誠達に向く。要、アイシャ、誠。三人ともそれぞれの意味で警察や軍部では有名人と言うこともあり、エルマの部下達も囁きあっている。
「それにしても出世したものだな、お互い」 
 そう言うエルマのおかっぱに刈りそろえられたライトグリーンの髪が揺れる。カウラは振り返って部下の要と誠。そしておまけのアイシャの方を見て困ったような表情で鈍い笑みを浮かべた。
「確かに。でもそちらは良い部下に恵まれているみたいじゃないか」 
「アタシ等は悪い部下だと言いてえわけだな」 
 カウラにあてこするように振り返った要が誠とアイシャを見つめる。アイシャは勤務服の襟の少佐の階級章を見せながら頬を膨らませる。誠も頭を掻きながらエルマを見つめていた。
「これは少佐……アイシャ・クラウゼ少佐ですか?」  
 そう言うとエルマが厳しい表情に変わり直立不動の姿勢をとる。あきれたように笑みを浮かべるアイシャ。それをしばらくカウラは見比べていた。
「良いのよ、別に気なんて使わなくても」 
「いえ……クラウゼ少佐の話は教育施設でも良く聞かされましたから。ゲルパルト独立戦争でのエースとして、あのゲルパルト共和国大統領、シュトルベルグ大佐貴下の遊撃部隊での活躍。私の仲間でも知らないものはいませんから」 
 目を輝かせるエルマにカウラは気おされていた。カウラもアイシャもゲルパルトの人造人間計画『ラストバタリオン』で製造された人造人間である。だが、ほとんどは製造中に終戦を迎え、それまでに育成ポッドの外にいたのは保安隊では運用艦『高雄』の艦長で運行部の部長鈴木リアナ中佐一人だと誠は思っていた。
「アイシャさんはゲルパルト独立戦争に参加したんですか?」 
「教えてくださいよ!オバサン!」 
 誠の純粋な疑問にかぶせてがなりたてる要。握りこぶしを作りながらアイシャがじりじりと要に近づいていく。
「馬鹿をやっている暇は無いんじゃないのか?エルマ……ちょっと急ぎの用事があってな。いくぞ、西園寺!」 
 馬鹿騒ぎが起きることを察知したカウラがそう言って要の手を引いた。唖然とするエルマを置いて駐車場の隅に向かうカウラ。
「要ちゃん」 
 カウラの赤いスポーツカーにたどり着いたアイシャが珍しく米神をひくつかせながら要をにらみつけている。
「なんだよ。急いでいるんじゃねえのか?シャムのことだ。徹夜が続くとまた逃げ出すぞ……と言うか逃げたんだな」 
 助手席のドアを開けた要はシートを倒してすぐに後部座席にもぐりこんだ。何も言えずに同じように乗り込むアイシャ。
「一応言っておくが、アイシャは早期覚醒で実戦に投入されたわけだ。私やサラみたいに自然覚醒まで培養ポットで育った者より稼動時間が長いのは当然だろ」 
 気を利かせてのカウラの一言。すぐにガソリンエンジンの響きが車内を満たす。
「いいわよそんなフォロー。それより久しぶりだったらお茶くらいしていけばいいのに」 
 アイシャの言葉にちょっとした笑みを浮かべるカウラ。車は駐車場を出て冬の気配の漂う落葉樹の森に挟まれた道に出た。
「今でもそう言うことには関心が持てないからな。アイシャほど実社会に対応した期間が長くは無い」