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果てる世界に微笑んで 第ニ話

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「私を助けてくれるなら、出してあげます」
 少女は牢屋の前に座り込み、東城に向かってそう言った。
 東城は、暫しの時の後、ゆっくりと目を細めて言った。
「御姫様、ここから逃げ出して、生きていくあてはあるのですか?」
 シロガネは、すぐ隣に座る男を見た。微笑の消えた顔は、柔らかいものの、ただ静かなだけのようにも見えた。
「あなたは、外の世界で何ができますか?」
 シロガネは少女を見た。少女は、しっかりと東城の方を見ていた。
「あなたは、外の世界で、何をやっているのですか」
 声は静かだったが、張りがあった。ひんやりとはしているものの、冷やかではない声。
「私にとって、自分が存在しているかということ。ただそれだけが、現実なのです」
 シロガネの中で、少女の印象が変わった。世間知らずは世間知らずでも、現実を知らないことに、危機感を持っている。自分の置かれた状況に絶望し、それを理解している。
 シロガネは、隣の男の表情を窺った。
「鍵を下さい」
 東城は、表情一つ変えていなかった。
「助けてくれるのですね」
 用心深く尋ねるものの、少女の声は、明るくなっていた。しかし、東城は頷きもしない。
「鍵を下さい」
 少女は、不快そうに目を細めた。しかし、東城は淡々と言う。
「鍵を下さい」
 空気が一瞬にして変わった。一歩下がろうとした少女の手首を、東城が掴んでいた。
「東城」
 シロガネが咎めるように名を呼んだ時には、東城は既に少女から鍵を奪っていた。
「東城っ」
 目を見開いた少女を無視して、東城は鍵を開け始めた。シロガネは、この穏やかでお人好しの男が、何故、こんな暴挙に出たのかが分からなかった。
 カラン、と音を立てて、木の扉が開く。
「シロガネ、私は、人を導くことはできません」
 東城は立ち上がった。笠を深く被った所為で、その表情を窺うことができない。
「切り開くこともできないのです」
 東城は歩き始めた。少女の横を通り過ぎ、階段の前で立ち止まる。
 東城空夜。その手に持つものは十手。どれだけ熟練しても、斬ることはできない武具。
「御姫様」
 東城は振り返って、未だ呆然と座り込む少女に言った。東城の声は、決して優しくはない。
 シロガネは知っている。東城は、良い身分の者が嫌いだ。
「現実を追って下さい」