電脳世界で生きるということ
ぷろろーぐ.
「どうして全部やろうとするんだよ。誰かに頼ったりすればいいじゃん」
ジュンが私にいうが、私はそんな質問を軽く受け取る訳にはいかなかった。確かに正鵠を射ている、この活動には多くの助けが必要だ。馬鹿みたいな意地を張って助け要らない、なんていうつもりはなく、助けて貰えるような人がいるならどうぞ私を助けてほしい。
でもだからといって、私はそれに甘んじてはいけないと思う。正直いってアテにしていないのだが、どう考えても私に勝るような人がすぐに私の元に来てくれるとは考えにくい。私はハードルを下げるつもりはないし、人を育てる気もない。ジュンに対しては「もうしてしまった」と仕方なくの要素があるが、正直いって仕方なくなのだ。
「ダメ」
「なんで?」
「誰が私の力になれるっていうのさ」
このバグを私以外が解決することなんて検討もつかない。このジュンという男は希望を持ちすぎている。もっと現実を見るべきだ。
大体、誰が私なんかのために命を賭けてくれるか。
そんなことをいっても、この男は馬鹿なのだ。妙に頑固なところがあって、自分の価値観を曲げようとしない。私にいわせてみればもっと想像力をもってほしいのだけど、結局その「誰かに頼るという行為」は私が最終的な決定をしなければどうにも動かない訳だし、こんなことを一々説明するのも面倒なので、これ以上はこのジュンという男にお任せしよう。察しろというやつだ。馬鹿は相手にできない。
もちろん、明確な理由があって「察しろ」というので、裏づけもなく発言してしまう、人間関係の本にありがちな馬鹿上司のようになっている訳ではない。
「ウザい」
その考えを凝縮した一言である。
「ウ、ウザいってなんだよっ」
「あとその漫画みたいな言い回しなんとかならないの? キモい」
ハッキリいってやった。
別に後悔することもない。コイツは私がなにをいってもついて来るんだし、私の言葉にはあまりついてこようとしないんだし。
「う、うるさいなぁ」
ほらね。
ジュンはひとつの言葉に縛られる癖のようなものがある。普通の人間の考えるようなところだけど、正直いってそんなところでは大人の付き合いというところまでには到れないだろう。要するに頭が回らないのだ。
反論するなら――欠点を述べたことについてではなくて、どうしてそんな風にいうか。だとか、私がどうすれば誰かに頼るようになるかだろう。だからこの男は馬鹿なんだ。
ガキの頭で私に命令するな、というと、なにも話してくれなくなりそうなので、流石にそこまではいわないでおく。
「装備なにつけてんの?」
「え?」
「だから装備、手ぶらじゃないでしょ」
「あぁ、うん。手ぶらじゃないけど、M82A1とリングメイルにクロスヘルムでしょ、あとアクセサリ色々」
「どんな?」
「属性エンチャントと、フレーム短縮のヤツ」
「あんたやっぱりセンスない……」
「え? え?」
私たちは街路を歩きながらこの会話をしていた。周りには頑丈に装備を固めた連中ばかりなものの、私たちはほとんどそれは全裸に近いような軽装で歩いているものだから、色々目を引いていた。
「バレットM82なんてなんで必要なの? どこに置いて撃つんだよバカ」
「だってなな子が銃用意しろっていうからさぁ、お店の人に聞いて一番強いの用意してもらったんだけど……」
「なんにも話聞いてないのかこのバカ!」
「ぎゃっ!」
私が蹴りを入れるとジュンは吹き飛んだ。レンガの壁をぶち抜いて。
死ぬ勢いで吹き飛ばしておきながら、数秒で復活するのは判っている。レンガに埋もれてしまったジュンは、しばらくして自らの力でそこからがば、っと起き上がった。
「いたた……なんでだよ! なな子こそ変な武器ばっかりじゃんか!」
「ジュンほどじゃない」
私の武器は、ベレッタM93Rにククリナイフ、レザーアーマー、レザーブーツ。それと空中移動用ウイング。一見おかしく見えるこの武装は、実はかなり理にかなっている。
「大体、ベレッタM93Rなんてどこに売ってるんだよ。そんなの見たことない」
「イングラムでも持てばいいでしょ、ほら」
サプレッサつきのイングラムを預かったジュンは、おぉ、と声を出す。
「あ、でもさ、これって結構壊れやすいヤツじゃなかったっけ? 量産してるやつでさ」
「壊れない!」
この女々しさに腹が立って怒鳴った。
南部ドラゴンバレーには多数のドラゴンが存在するので、通常の武器よりも強い武器が必要とされた。一般のユーザーにとっては苦戦するスポットではあるものの、私たちにとっては敵ではない。
「おらおらおら!」
ベレッタM93Rはピストルでありながらも三点バースト射撃が可能な武器。それをコードでマガジンの個数に改良を施している。
サブマシンガンを用いないのは小回りが利かないからだ。反動を半減させられるとはいえ、重量感のある武器でわざわざ照準を合わせるのははっきりいって時間の無駄だろう。多くの弾を射出できる武器を使った方がよほど現実的だ。
あまりメジャーな武器ではないのだろうか、M93Rはそもそもテロ鎮圧用に開発された武器だ。とはいえ、この戦闘スタイルにはかなり適した武器といえる。武器の威力など考える必要はない。グレネードの爆発ももポールアクスの一斬りもブーメランの打撃ももM93Rの一発も、全て同じ威力なのだから。
――グォオォォォォオォォォォォ!!!!!!
ドラゴンが声を上げながら倒れていく。ユーザーを困らせようとして作った設計が仇となった。案外攻略が面倒臭い。
「ジュン! そっちいった!」
「判った!」
空中をウイングで飛ぶ私に対し、ジュンは走っている。しかし彼のその速度は全く遅れをとらない。
歩幅や筋肉や身体構造で走っているのではなく、速く走るという定義を与えられているジュンが遅く走ることはない。もしこれでこの男が遅く走っているのなら、それはサボっているということになる。
この男は、出来ないにしろやることはきちんとやろうとする。その意思に関してだけは認められるかもしれない。
「いけええええっ!」
イングラムが火を吹いた。毎分一二〇〇ものの弾を放つというそれは、ドラゴンを次々薙ぎ払っていく。
弾丸の心配をする必要はない。それに、弾がなくなったとしても負ける訳ではない。
私たちはドラゴンバレーをものすごい速さで攻略していく。龍は百や二百の数ではないのだけれど、それがどうした。
「ジュン、バレットM82とクロスヘルムを融合するとセミスパタなんだって、そんな武器融合しなさい」
「えー、したくないよ!」
「しろってバカ! 死ぬよ!」
ユーザーには武器や防具を融合する機能が与えられている。セミスパタは別名グラディウスと呼ばれる剣のことで、私の持つククリナイフ以上に使いやすい武器。
バレットM82は対戦車用に使われることもある武器なのだけど、こんなところで必要はない。要らないものよりも要るものを使うべきだろう。
「速く!」
「判ったよー!」
ジュンの装備がM82からセミスパタに替わる。この変化はとても大きな変化だ。
――。
「どうして全部やろうとするんだよ。誰かに頼ったりすればいいじゃん」
ジュンが私にいうが、私はそんな質問を軽く受け取る訳にはいかなかった。確かに正鵠を射ている、この活動には多くの助けが必要だ。馬鹿みたいな意地を張って助け要らない、なんていうつもりはなく、助けて貰えるような人がいるならどうぞ私を助けてほしい。
でもだからといって、私はそれに甘んじてはいけないと思う。正直いってアテにしていないのだが、どう考えても私に勝るような人がすぐに私の元に来てくれるとは考えにくい。私はハードルを下げるつもりはないし、人を育てる気もない。ジュンに対しては「もうしてしまった」と仕方なくの要素があるが、正直いって仕方なくなのだ。
「ダメ」
「なんで?」
「誰が私の力になれるっていうのさ」
このバグを私以外が解決することなんて検討もつかない。このジュンという男は希望を持ちすぎている。もっと現実を見るべきだ。
大体、誰が私なんかのために命を賭けてくれるか。
そんなことをいっても、この男は馬鹿なのだ。妙に頑固なところがあって、自分の価値観を曲げようとしない。私にいわせてみればもっと想像力をもってほしいのだけど、結局その「誰かに頼るという行為」は私が最終的な決定をしなければどうにも動かない訳だし、こんなことを一々説明するのも面倒なので、これ以上はこのジュンという男にお任せしよう。察しろというやつだ。馬鹿は相手にできない。
もちろん、明確な理由があって「察しろ」というので、裏づけもなく発言してしまう、人間関係の本にありがちな馬鹿上司のようになっている訳ではない。
「ウザい」
その考えを凝縮した一言である。
「ウ、ウザいってなんだよっ」
「あとその漫画みたいな言い回しなんとかならないの? キモい」
ハッキリいってやった。
別に後悔することもない。コイツは私がなにをいってもついて来るんだし、私の言葉にはあまりついてこようとしないんだし。
「う、うるさいなぁ」
ほらね。
ジュンはひとつの言葉に縛られる癖のようなものがある。普通の人間の考えるようなところだけど、正直いってそんなところでは大人の付き合いというところまでには到れないだろう。要するに頭が回らないのだ。
反論するなら――欠点を述べたことについてではなくて、どうしてそんな風にいうか。だとか、私がどうすれば誰かに頼るようになるかだろう。だからこの男は馬鹿なんだ。
ガキの頭で私に命令するな、というと、なにも話してくれなくなりそうなので、流石にそこまではいわないでおく。
「装備なにつけてんの?」
「え?」
「だから装備、手ぶらじゃないでしょ」
「あぁ、うん。手ぶらじゃないけど、M82A1とリングメイルにクロスヘルムでしょ、あとアクセサリ色々」
「どんな?」
「属性エンチャントと、フレーム短縮のヤツ」
「あんたやっぱりセンスない……」
「え? え?」
私たちは街路を歩きながらこの会話をしていた。周りには頑丈に装備を固めた連中ばかりなものの、私たちはほとんどそれは全裸に近いような軽装で歩いているものだから、色々目を引いていた。
「バレットM82なんてなんで必要なの? どこに置いて撃つんだよバカ」
「だってなな子が銃用意しろっていうからさぁ、お店の人に聞いて一番強いの用意してもらったんだけど……」
「なんにも話聞いてないのかこのバカ!」
「ぎゃっ!」
私が蹴りを入れるとジュンは吹き飛んだ。レンガの壁をぶち抜いて。
死ぬ勢いで吹き飛ばしておきながら、数秒で復活するのは判っている。レンガに埋もれてしまったジュンは、しばらくして自らの力でそこからがば、っと起き上がった。
「いたた……なんでだよ! なな子こそ変な武器ばっかりじゃんか!」
「ジュンほどじゃない」
私の武器は、ベレッタM93Rにククリナイフ、レザーアーマー、レザーブーツ。それと空中移動用ウイング。一見おかしく見えるこの武装は、実はかなり理にかなっている。
「大体、ベレッタM93Rなんてどこに売ってるんだよ。そんなの見たことない」
「イングラムでも持てばいいでしょ、ほら」
サプレッサつきのイングラムを預かったジュンは、おぉ、と声を出す。
「あ、でもさ、これって結構壊れやすいヤツじゃなかったっけ? 量産してるやつでさ」
「壊れない!」
この女々しさに腹が立って怒鳴った。
南部ドラゴンバレーには多数のドラゴンが存在するので、通常の武器よりも強い武器が必要とされた。一般のユーザーにとっては苦戦するスポットではあるものの、私たちにとっては敵ではない。
「おらおらおら!」
ベレッタM93Rはピストルでありながらも三点バースト射撃が可能な武器。それをコードでマガジンの個数に改良を施している。
サブマシンガンを用いないのは小回りが利かないからだ。反動を半減させられるとはいえ、重量感のある武器でわざわざ照準を合わせるのははっきりいって時間の無駄だろう。多くの弾を射出できる武器を使った方がよほど現実的だ。
あまりメジャーな武器ではないのだろうか、M93Rはそもそもテロ鎮圧用に開発された武器だ。とはいえ、この戦闘スタイルにはかなり適した武器といえる。武器の威力など考える必要はない。グレネードの爆発ももポールアクスの一斬りもブーメランの打撃ももM93Rの一発も、全て同じ威力なのだから。
――グォオォォォォオォォォォォ!!!!!!
ドラゴンが声を上げながら倒れていく。ユーザーを困らせようとして作った設計が仇となった。案外攻略が面倒臭い。
「ジュン! そっちいった!」
「判った!」
空中をウイングで飛ぶ私に対し、ジュンは走っている。しかし彼のその速度は全く遅れをとらない。
歩幅や筋肉や身体構造で走っているのではなく、速く走るという定義を与えられているジュンが遅く走ることはない。もしこれでこの男が遅く走っているのなら、それはサボっているということになる。
この男は、出来ないにしろやることはきちんとやろうとする。その意思に関してだけは認められるかもしれない。
「いけええええっ!」
イングラムが火を吹いた。毎分一二〇〇ものの弾を放つというそれは、ドラゴンを次々薙ぎ払っていく。
弾丸の心配をする必要はない。それに、弾がなくなったとしても負ける訳ではない。
私たちはドラゴンバレーをものすごい速さで攻略していく。龍は百や二百の数ではないのだけれど、それがどうした。
「ジュン、バレットM82とクロスヘルムを融合するとセミスパタなんだって、そんな武器融合しなさい」
「えー、したくないよ!」
「しろってバカ! 死ぬよ!」
ユーザーには武器や防具を融合する機能が与えられている。セミスパタは別名グラディウスと呼ばれる剣のことで、私の持つククリナイフ以上に使いやすい武器。
バレットM82は対戦車用に使われることもある武器なのだけど、こんなところで必要はない。要らないものよりも要るものを使うべきだろう。
「速く!」
「判ったよー!」
ジュンの装備がM82からセミスパタに替わる。この変化はとても大きな変化だ。
――。
作品名:電脳世界で生きるということ 作家名:雛蹴鞠