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遼州戦記 保安隊日乗 4

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「別に焦っているわけじゃあ無いんですけどね」 
「焦っていない奴はそんな言葉は吐かないな」 
 シュウマイにしょうゆをかけるカウラの声。ようやく島田は心配そうに見つめるサラに目をやるとそのまま立ち上がって誠達が囲んでいる休憩用のテーブルに常備されている安物のパイプ椅子に腰掛けた。
「しかしまあ、衣類の破片とか見つからないもんかねえ。身元が分かればそこから何とか切り込むって手もあるんだろうけど……」 
 景気良く麺を啜りこみながらつぶやく要。誠もその意見には同意して頷くと真似をして麺を啜りこむが思い切り気管に吸い込んでむせ返る。
「なにやってんのよ!誠ちゃんは」 
 アイシャが咳き込む誠の背中をさする。そして不意に見上げた先に青い表情でチャーシュー麺とチャーハンセットを見下ろして黙り込んでいる島田を見つけた。
「おい、食えよ。力つかねーぞ」 
 心配したようにランが声をかける。島田を気にして箸をつけられないサラが不安げに島田を見つめている。
「今回も手がかりは……」 
「仕方ねえなあ」 
 そう言うともう食べ終わっている要は首筋にあるジャックにコードを刺してそのまま一番近かったランの使っていた端末のスロットに差し込んだ。
「見てな」 
 どんぶりを抱えて近寄るカウラに一言言うと画面が高速で切り替わっていく。
「監視カメラですわね。……それにしては位置がおかしくありません?」 
 茜の不審そうな顔に不敵な笑みで答える要。同盟本部ビルの前に小夏くらいの年の少女が目つきの悪い男に連れられて画面の中に入ってくる。
「こんなの良く見つけたな」 
 カウラがそう言った瞬間、少女から発せられた衝撃波で次々と周りの人物や車、そのほかの障害物が撥ね飛ばされていく。
「勘だよ勘。そこだけはアタシも自信があるからな」 
 一言そう言って微笑む要。しかし誠達には彼女を見るような余裕は無かった。
「これがあの肉の塊に……」 
 そんな低くつぶやくような誠の言葉に、一同からそれまでの歓喜の表情が消える。そして不安定な位置に取り付けられていたらしく画面は転倒し空だけを映し出すようになっていた。
「西園寺、あの少女の写真は?」 
「もうすでに所轄に送ってますよ。さすがにここまで話がでかくなれば面倒だろうが動かないわけには行かないでしょ?それと明石のタコ経由でライラの山岳レンジャーにも転送済み。後は彼らの運にかけるしかないけどね。まあこの情報は証拠性でなんどか検察が裁判で証拠にしようとして認められなかった系統のネットから拾った映像ですからねえ。物的証拠が出てこないと意味無いんだけどさ」 
 そう言うと首筋のジャックからコードを抜いてそのまま呆然としている島田からチャーハンを取り上げて食べ始めた。
「要ちゃん!」 
「サラ。良いじゃねえか。島田もようやく食欲が出たみたいだし」 
 要の言うようにすでに島田はチャーシュー麺のどんぶりに手をやっていた。
「ええ、食欲は出てますよ。当然デザートに西園寺さんのおごりがあるんでしょうからその分も空けておきますから」 
「そうですわね。こんな情報を知っておきながら独り占めなんて……厳罰が必要ですわ」 
「つーわけだ。それ食い終わったら……工場の生協は24時間営業だからな。ケーキ買って来いよ」 
 茜とランの言葉に渋い顔をする要。だが、誰もが煮詰まってぴりぴりしていた空気が変わって晴れやかな表情を浮かべていた。
「分かったよ……ちょっと待った!」 
 要はそう言うとすぐに開いていた一番奥の端末に飛びついた。すぐさまうなじのジャックにケーブルを挿して端末を起動させる。
「おい、どうした?」 
 驚いたランの言葉などに耳を貸すことも無くすばやく切り替わっていく画面をただにらみつける要。
「出てきた!出てきやがったぜ!」 
 そんな叫びに緊張した表情を浮かべたのはカウラだった。
「お前の情報網に何が引っかかったんだ?」 
 カウラが声をかけると作業を終えた要は死んだような目でカウラを見上げる。
「志村の野郎が連絡してきやがった。二時間後に事務所で会いたいとよ」 
 そう言って伸びをする要。きしむ椅子の音。画面には変換ミスの多い端末で打った長文が誠にも見えた。
「さすがにこれだけ話がでかくなったらなあ……あいつ消されるぞ」 
 ランはすぐさま立ち上がった。
「拳銃くらいは持っていったほうがいいわよね」 
「拳銃で済む話で収まればいい方だ。獲物はそれぞれ自分のを用意しろ。そのまま戦闘なんてことも十分考えておけよ」 
 アイシャをせかすように立ち上がった要。誠はただ呆然としていた。
「頼むぜ、法術師!」 
 気を利かせたように島田が誠の頭を叩いた。誠はようやく正気を取り戻して冷蔵庫を飛び出すと更衣室の金庫に拳銃とサブマシンガンを取りに走り出した。


 魔物の街 24


 志村三郎は複雑な表情で事務所の椅子に座り込み携帯端末に耳を当てていた。締め付けられた喉もとの感覚が気になって自分でも悪趣味だと思っている真っ赤なネクタイ。緩めてみるが事務所の自分の机を叩き続けるかかとの音は止まることが無い。電話の相手の同盟保険室の職員と名乗っていた男にたしなめられたところで彼の苛立ちは納まるわけも無かった。
「あんた達だろうが!臓器売買?冗談じゃない!あんな化け物を作っているなんて話は聞いてないぞ!そんな甘っちょろい話どころか同盟司法局だけじゃなくて軍まで動いてるんだ!」 
 そう怒鳴りつけると端末の電源を落として事務所の中を見回す。すでに彼の不機嫌を知った商社を名乗るこの小さな事務所の中の舎弟達は出て行った後だった。そして自分の立派に過ぎると思っている執務机の画像には一人の少女の姿が映っていた。
 それは西園寺要から送られてきたメールに張り付いていた動画の一場面だった。事務所から帰る道すがら、そして帰ってきてからも志村は何度と無くそれに目を通した。確かに彼はその少女を同盟機構の役人にひそかに譲り渡していたのは事実だった。
『別に東都だけが金を稼げるところじゃないでしょ?何なら高飛びの手配でも……』 
 そこまで相手が言ったところで志村は通信を切った。
「なんだってんだ!」 
 そう叫んでキーボードを叩いてみるが苛立ちは収まらない。昔、娼婦の仮面で彼に近づきベルルカン系シンジケートの幹部の動静を探っていた西園寺要。彼女が胡州の四大公家の嫡子であることを知ったときは満面の笑みで自慢して歩いたものだが、今回の驚きはそれの逆を行く話だった。
 元々遼南からの難民を東都の各地の臓器売買を行っている組織に売り渡す仕事のための事務所。とてもまともとは言えないが、需要があるからと言うことで自分をだましながら続けてきた商売。だが今回はその相手が兵器としての法術師を開発している連中となれば話は違った。志村は試しに自分の端末に再び電源を入れてみた。多数の着信。多くが目の前の画像に映っている少女の消息を探っている官憲の犬達のいることを知らせるものだった。
 好意的な垂れ込みから、古くから付き合いのある臓器ディーラーからは怒りに震えるような文言での脅迫文じみたメールが届いている。
「ったく……どうなってんだよ!」