ハローベイビィ
二回、ノックをする。
白い引き戸を開けると、中には真っ白な部屋が広がっている。のっぺりとした、白い壁。白いベッド。白いシーツ。はたはたと風にはためく、白いカーテン。窓の向こうには、夏を感じさせる白く眩しい日差しが溢れている。二つ並んだベッドのうち、窓際のベッドには白いパジャマを着せられたイチが、そしてその脇で椅子に座って付き添っているドリもまた、白いワンピースを着ていた。彼女の両腕にはぐるぐると包帯が巻かれている。
イチはベッドの上で体を起こして、ぼんやりと白い壁を見つめていた。ドリはそんなイチを見つめながら、ふんふんと鼻歌を歌っている。
「具合は、どう?」
入り口に立ったまま、タロは話しかけた。ドリはタロを見て、にっこりと笑う。
「いつも通りよ。それ以上でも、それ以下でもないわ。」
「そっか。」
「そうよ。いつも通り、何を言っても聞こえないみたい。夜中にね、時々、アタシのことを母さんって呼んで泣くの。アタシのことを母さんって呼んで甘えるのよ。他の看護婦さんにはそんなことないのに、アタシにだけ。」
うふふふふ、と彼女は笑った。大きな目が綺麗な三日月を描いて、朱(あか)い口唇は左右にきゅっと引かれる。
これ以上の幸せなんてないみたいな。
そんな笑顔。
真っ白な部屋の中で、彼女は笑っている。呆けたイチの隣で、いつだって笑っているのだ。
「オレさ、お前のこと好きだったんだ、ドリ。」
「そう。」
真っ白な病室の中、夏の風に遊ばれて白いカーテンがバタバタと鳴った。真っ白な陽光が、キラキラと部屋の中に降り注いでいた。
「でも今は、お前のこと怖いよ。」
ドリはまるで世界の幸福の縮図がこの白い部屋の中にあるみたいに、幸せそうに笑っていた。