遼州戦記 保安隊日乗 2
口元は笑っているが目が呆れていた。隣に立つ岡部もただ何も出来ずに立ち尽くしている。調子の良いフェデロは勇敢にもリアナのリサイタルが予定されている場所でアンプの設定を手伝っていた。
「遅くなりました」
そう言いながら茜は野菜を切り分けている管理部の面々に合流する。
「私、何か出来ませんか?」
ついさっきまで会議を遂行するように叫びかねない茜だったが手のひらを返したように歓迎会の準備に入ろうとしている。
「良いんだよ。茜。お前も歓迎される側なんだから黙って見てれば。さてと」
嵯峨はタバコに火をつけて座り込んだ。
「神前!手を貸せ」
いつの間にか復活していた島田が、クーラーボックスに入れる氷を砕いている。
「わかりました!」
「アタシも行くぞ」
「私も!」
要とアイシャが誠と一緒に駆け出す。遅れてカウラも後に続いた。
「いいねえ、若いってのは」
そう言いながら嵯峨はタバコの煙を吐いた。秋の風も吹き始めた八月の終わりの風は彼等をやさしく包んでいた。誠は空を見上げながらこれから始まる乱痴気騒ぎを想像して背筋に寒いものが走った。
(了)
作品名:遼州戦記 保安隊日乗 2 作家名:橋本 直