茜色のどんぐり
「いたいたー芋ケンピ茜。又食ってんの? 俺にもくれよ」目の前の樫の木をよじ登って、いつかの男が現れた。
「何しに来たの!? まさか、この間の仕返し?」男は誇らし気に背中に背負ったギターを降ろして弾き始めた。相変らず下手くそだった。つっかえつっかえで聞けたもんじゃない。本人も自覚しているらしく、仕舞いには投げ出した。
「ええい!いいか俺はな、とうとう天職を見つけた!子ども達に夢を与える劇団員だ。すごいだろう。もうプー太郎だとバカにされたりしないぞ!」ジャジャーン!と調子っぱずれのギターをかき鳴らした。
「そんな事を言いにきたの?わざわざ木を登って?」
「ううん。違うよ」と男は即答した。
「たまたま下を通りかかったら見えたから昇ってみただけ。別に仕返ししようとしたわけじゃなかったんだけど、俺がわんさわんさと登ってたら揺れて落ちちゃったね。ま、いいんだけど。俺の名前言ってなかったじゃん?」
男は足下に落ちていた樫の実を1つ拾って、茜の目の前にかざした。
「俺の名は・・・」