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Fantastic REAL

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「いや、圭太。言い直すよ。オタクかどうかの問題じゃない、現実を直視できるかどうかの問題だろ?」
黙っている圭太に構わず、時計くんは続ける。
「おまえと俺の分岐点がどこだったのか、自覚があるんだろ? それでも現実を生きる気がないのなら俺と代われよ」
圭太は頭を整理しながら、ゆっくり返事をした。
「もちろん、現実を見たくないからこんな俺になったんだ。そのきっかけが何かも、もちろん忘れるわけがない」
動揺を悟られないように、無表情のまま、静かに答えた。
「そんなにあせるなよ」
圭太の演技もむなしく、もう一人の圭太には簡単に気持ちを悟られてしまう。
「あの時から現実逃避し続けて、それで何が変わるんだよ。さっきも言ったが、俺は理想の“圭太”。現実と向き合うことを選んで生きているお前だ」
「だからなんだよ」
「おかしいと思わねぇ? 現実逃避したいおまえが現実にいて、現実を直視した俺が並行世界にいる」
時計くんの表情は一言言うたびに変わる。
むしろ、そのころころ変わる表情のせいで、本心では何を考えているのかが読み取りにくかった。
「おまえは時計を逆回りに回したんだ。無意識のうちに時間を巻き戻したいと望んでいたから、ね」
「そんなのこじつけだろ」
「圭太がこじつけだと思うならそう思っててもいいぞ。ただ、それがきっかけで俺がこっちに来たのは……事実だ」

事実を突き付けられ、圭太は言葉を失った。
しかし、意外にも頭はしっかり動いていて、自分がすべき選択を探っていた。
「圭太、どうするんだよ」
「……時計くん」
「なに?」
「おまえ、あの時のこと忘れた?」
圭太は決心をつけるために、一つだけ質問をした。
「忘れられねぇよ。さすがに、ね」
「そうか」
大きくため息をついた圭太を、時計くんが心配そうにのぞきこむ。
「圭太は、忘れたいのか?」
「ちがうよ」
時計くんが部屋に来てから初めて、圭太は笑った。

「現実と向き合ったら全部忘れそうだったんだ」
「忘れたく……ないのか」
「もちろん」
「だって辛かっただろ? だからおまえは――」
「辛かったよ。でも忘れたら、あの時の自分の判断まで否定するみたいだから」
時計くんにとって、現実の圭太の答えは予想外だった。
「俺は女々しいから。自分で自分の存在証明が欲しいんだ」
「あの出来事がそうだとでも?」
「他の人にとってはなんてことない出来事だけどな。あの時がお前と俺の分岐点だと言うのなら、それは俺の存在証明になる」
話すトーンこそいつも通りの圭太だったが、何か吹っ切れたような雰囲気だった。
「おまえ、バカじゃねぇのー!」
時計くんは顔をくしゃくしゃにして、心底愉快そうに笑った。
「最初から結論出てたんだろ。ちぇ。俺の出る幕なんかなかったんじゃん」
「は?」
「俺は、おまえが忘れたいから現実逃避してたんだとばかり思ってたのにさぁ」
「残念だけど、ここは俺が生きる世界だよ」
「みたいだな!」
二人とも笑顔だった。

「俺、安心したよ、圭太」
「そりゃどうも」
時計くんの体は、少しずつ透け始めた。
「でもいくら現実を忘れたくないからって――」
ほとんど消えてしまっている時計くんは最後に言った。
「なんでその方法が、2次元への現実逃避だったんだよ」
笑って消えた時計くんに向けて、誰もいない部屋で圭太はつぶやいた。

「それは、俺にオタクの素質があったからかな」
作品名:Fantastic REAL 作家名:リクノ