川口暁過去作品集
味方
ドンドンドン
昌義がトイレのドアを叩いてくる
…トイレに入りたいからじゃない。
私達の住む、この狭いアパートには鍵をかけられる場所が玄関とトイレぐらいしかないのだ。
「友!なに怒ってんだよ!!」
30分もトイレにこもってたらさすがの昌義も異変に気が付いた。
でもどうせ気付かない。
…たてこもりの理由は。
いつもそうだもの。
「ー…友…。俺なにかした?」
「…」
「謝るからさ、でてこいよ」
「…」
「友!」
「理由もわからないのに謝らないでよ」
「…」
鍵。
理由はこれ。
私達の間に秘密はないと思ってた。
昨日までは。
いつものように財布を机に置きっぱなしにしていた昌義に代わって、私は昌義の引き出しを開けてしまってあげようとした。
ガッ
…とにぶい音をたてて、動きが止まった。
…他の引き出しも全部。
一昨日まではなかった。
普段私は、そんなに怒りっぽいたちでもないし、疑い深くもない。
でも今回は…
死のうとしてたんだ。
私に黙って。
ゴミ箱に遺書があった。
…多分引き出しには薬が。
「友…?」
「…」
「泣いてるの…?」
一昨日も昨日も今日もいつもと変わらない笑顔で帰ってきた昌義。
「死なないでよー!」
やっぱり黙ってられなくて、口からでてた。
「あんたが死んだら絶対後追ってやるから!地獄でも追い掛けるから!」
バンッ
「…」
昌義がトイレの鍵を破壊した。
私をきつく抱き締める。
「死なないよ」
「…へ…」
涙と鼻水ですごい顔の私は、さらにまぬけな顔で答えた。
「…可愛がってた部下がいただろ?ほら、水本ってやつ。
…自殺未遂したんだ。
俺の机に遺書がのってて、俺がすんでで止めたんだけどさ。…あいつさ、部所が変わって、そこの上司に相当ひどいいじめみたいなのうけてたんだって…。時々飲みに行ってたのにぎりぎりまで気付いてやれなくてショックでさ…。遺書は破り捨ててやった。それでその上司を訴えようと色々準備してたんだけど…」
…なんだ…
昌義じゃないの…
そうなの…
「…引き出しは?」
「…あー…」
昌義が引き出しの真ん中の段を小さな鍵で開けた。
「…一つだけ閉まってたらバレバレかと思って…はい。誕生日おめでとう」
大丈夫、水本さん。
昌義は、あなたの味方だ。
そして私は昌義の味方だ。
だから私も君の味方になろう。
明日はほら
晴れです。