川口暁過去作品集
刺青≠
あいつの腕をそっとなぞるのが好きだ
固くてちょっと日焼けした地肌の上に、よくわからない刺青がのってる。
これは…たこ焼き?鰹節かかった。
あいつは煙草を吸っている。
すぱすぱ気軽に。
多分あいつは私が煙草やめろって言えば簡単にやめられるだろう。
そんな男なのだ。
夕焼けを浴びた後ろ姿がでっかい。
二人乗りのバイクに一人で乗る。
私が乗せてといえばすぐに乗せてくれるだろう。
でも私はそれを頼まない。
あいつの相方に乗るわけにはいかないのだ。
あいつは私を殺すと思う。でも私は逃げない
逃げるわけにはいかない。
大好きだから
これで彼女の日記は終わっていた。
この部屋には、日記意外に彼女がいたという証拠がない。
馬鹿な女だった。
馬鹿で馬鹿で
最高の女だった。
でも
だから
このままじゃ彼女を食い殺してしまう
駄目にしてしまう
その前に彼女を突き放した
遠くへ遠くへいくように
戻ってこれないように
思わず自分の刺青にふれていた。
これはたこ焼きじゃない。薔薇だ。
花びらがどうみれば鰹節になるんだ。
あぁ
わかった
「彼女」が戻ってこれないようにじゃない
俺は
「俺」が追い掛けられないようにしたんだ