わたし以外みんな異世界行ったのでどうにかする
「ねーっ、すっげー意味わかんないでしょ~!あの人すぐ違う名前を名乗るから、知り合いっぽい人はみんな蛇使いって呼んでるみたい」
なるほど、これからはそれでいこう。呼ぶ方としても恥ずかしくないし。
「それより聴いてよ~。僕って結構不遇な身の上でね。超かわいそーなの!」
喋ることを禁じられていた鏡は自由に発言できることが嬉しくて仕方ないようで、生き生きとした声色で語り始めた。
「前の持ち主、まあ気位が高いだけのつまんないただの未亡人なんだけど、も~女王様気取り酷くってね。毎日毎日この世で一番美しいのは誰だ誰だってうるさくってさ~。元々ちっちゃいことですーぐヒステリー起こすんだけど、ある日僕がちょこぉ~っと反抗したら本気でキレちゃってね!何ていうの?パワハラ?パワーハラスメントっていうの?もしくはいじめ?ともかく、いきなり暴力振るってきてさ~、僕はキレーに真っ二つだよ!その上、その勢いで外に放り出されちゃったんだ!それでその鏡の片割れ、つまり僕をあの男が拾って今に至るってわけ!確かにあの男も怪しいけど、でもねー、主としてはあのヒステリー女の方が酷かったよね~!もう何?毎日同じこと聞いても、ランダム表示の占いじゃないんだから診断結果は変わらないっていうか~。いい加減、どうせ選ばれるのは君じゃないから安心してよってカンジ?この間まで白雪姫が世界で一番美しいと言っていたのにどういうことだ、とか最近はそればっかり!もー同じことばっかり煩くてさ~。古い古い、古いよねー!だいたい、今はどう考えてもカグヤでしょ!?そう思うよね!?だんっぜんアツイよね!?白雪姫は結婚したときに髪切っちゃったから、どんなに顔とプロポーションを保ってもポイントダウンは免れないって話で・す・よ・ね~!ああ~、なんて惜しいことするかなぁー!?あの時は本当、涙で枕を濡らしたよ、三日は!それよりもさー、カグヤだよカグヤ!ここ最近でグッとキレイになったよねぇ~。ハアァ~、本当に惚れ惚れしちゃうなぁ僕!白雪姫がショートヘアに転向したからには、もうカグヤ、ダントツじゃない!?天下無双じゃない!?あれっ、ちょっと意味違うかな?ま、ニュアンスだけ汲み取ってよ。それより、あの流れるような艶々の黒髪の、長ぁい髪……もう腰のところより長くなったんじゃないかな?はー!あー!一度で良いから高いところでくくってみてくれないかなぁ!?いや、うなじの辺りで纏めるのも捨て難いんだけどね!……あれ、反応薄いね。ごめんごめん、そういえば君は住んでる世界が違うんだったね。常世の話題についてこれなかったかな?ええと、掻い摘んで言うと、黒髪ポニーテールは最高だって話だったんだけど、分かった?大丈夫かな。えーと、いい?ここ大事だよ?一本結び、サイドテール、ポニーテール!総髪!これ最強ね!え、っていうか、ちょっとちょっとちょっと!君もイイカンジじゃなーい!?ポニテじゃなーい!?アッちょっ何でほどくの!?ケチー!ケチー!」
わたしは鏡が沈黙を命じられた理由を理解した。
作品名:わたし以外みんな異世界行ったのでどうにかする 作家名:ちまこ