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遊佐 はな
遊佐 はな
novelistID. 16217
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政府公認秘密機構「なんでもや」。

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ただでさえボクより20センチは背の高い瀬戸さんが、より大きく見える。
「いや…そんなバカなんて…」
思ってないとは言い切れず、語尾を濁していると、神さんが眉間にしわを寄せながらつぶやいた。
「かもしれないな…」
かもしれない?
「は?」
ボクと瀬戸さんが声をそろえた。
「えっと、その…かもしれないってのはカマっていう暗号が2丁目のオカマバーかもしれないってことですか?」
少し緊張しながら、恐る恐るたずねてみた。
だって、何がどうなったらオカマバー…?
「隠れるなら森の中という言葉通り、何かを隠すなら雑踏のほうが見つかりにくい」
神さんは腕を組み、下を向いたままつぶやく。
言われてみればその通りかもしれないけれど。
「じゃぁ、そのカマバーに行く前に腹ごしらえしとこうぜ」
瀬戸さんは自分の考えが受け入れられたからなのか、全身で嬉しさを表現するかのように小躍りしている。
「あ…あの…ボクは…」
おなかがすいていないというわけではない。
むしろ、減りすぎて感覚がないと言ったほうが正解のような気がする。
でも、どこかへ行くにもお金なんて持っていない。
ましてや、ボクが彼らと一緒に行動する理由なんてひとつもない。
「あ?なんだよアオ。ノリ悪ぃな」
瀬戸さんが力強くボクの肩を抱いた。
「ぃや…あの、えっと…」
どうしよう。
何を言ったらいいんだろう。
一緒に居たい気持ちは十二分にあるというのに、ボクが居たら足手まといになるとか、2人と一緒にいる理由がないとか、ボクは一体どうしたいんだ。
「俺に逆らうことは許されない」
ずっと下を向いていた神さんが、すっと顔を上げてボクをまっすぐに見つめた。
「空から降ってきたものを俺が拾ったんだ。お前はもう俺の所有物であって俺の命令に逆らうことは許されない。わかったか?」
神さんは低く通る声でそういうと、ボクに背を向け歩き出した。
「あぁ?ちょっと待てゴッド!捕まえたのは俺だろうが!」
歩き出した神さんの後ろを慌てて瀬戸さんが追いかける。
「アオ早くしろ!」
そんな2人を見ていたボクに瀬戸さんが振り返った。
「俺らもう仲間みたいだな」
瀬戸さんが白い歯を見せて笑った。
「仲間?」
瀬戸さんの言葉を反復する。
「てめぇは俺様の下僕だ」
神さんがタバコに火をつけながら鼻で笑う。
「あぁ?てめぇさっきから(怒)」
瀬戸さんが神さんにつかみかかろうとする。
「まぁまぁ」
ボクは鼻をすすりながらそれを止めた。
嬉しくて仕方ない。
ボクにも「仲間」が出来た。
「言っておくが、俺たちの中に入るということは、かなり危険なことだ。平穏な生活など送れないということを覚悟しておけよ」
神さんはそういってタバコの煙を一気に吐き出した。
あたりに神さんの香りが広がった。
「あ、あの…」
彼らは何者なのだろうか?
これから起こるであろう危険なことって一体どんなことなのだろうか?
聞きたいことはたくさんある。
でも、今一番気になっていること、それは。
「なんでボクはアオなんですか?」
神さんが言った。
『今日からお前はアオだ』
なぜボクの本当の名前を聞こうともせずに、アオなんて名前をつけたのだろうか。
「お前さ、実は家出かなんかだろ?」
瀬戸さんが、ちょっと困ったように小さく言った。
「家出…」
と言われればそうかもしれない。
けれど、あの場所はボクの帰る場所だったのだろうか?ボクが居てもよかった場所なのだろうか?
「そんなナリであんなビルから落ちてきたってことは、それなりに思いつめてるとこあったんだろ?」
珍しく落ち込んだように低いトーンで話す瀬戸さんにボクはただうつむいた。
「碧い空から落ちてきたからだ」
そんな暗いムードを一蹴したのは、瀬戸さんではなく神さんのほうで。
ボクは驚いて顔を上げる。
「碧い空から降ってきた。だからアオだ。それ以上も以下もない。俺の所有物だ。わかったか」
こみ上げてくるものの正体をボクは知っている。
けれど、少し照れくさそうに背を向けた神さんにボクは笑顔を向けた。
それはボクにとって忘れかけていた心からの笑顔だった。
「モタモタしてんじゃねぇ。行くぞ」
イライラしたように急かす神さんの声も、ただのテレ隠しだということが今ならよくわかる。
「はい」
ボクは大きな声で返事をした。
胸につかえていた何かがすっと落ちた、そんな晴れやかな気分だった。