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遊佐 はな
遊佐 はな
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政府公認秘密機構「なんでもや」。

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第2章-仲間-


「カマ…釜・鎌・窯…カマ…ぬぉぉぉぉ~一体なんのことなんだよ」
瀬戸さんの声が薄暗い闇の中にこだまする。
地下下水道路の一角。
『走れ』
という神さんの合図でボクたちは走り出した。
走り出したといっても、ボクはどうしていいものかわからず、ただ瀬戸さんの背中をおいかけていただけだけど…
背後からは鳴り止まぬ銃弾の音。
部屋から飛び出した神さんは、そのまま裏口へと周り込む。
向かい側のビルから散々銃弾を打ち込んできていた相手だ。
裏口はもちろん、出入り口という場所には見張りや、何かしらのトラップがしかけてあるものだと思っていた。
けれど、裏口にはそんなものは1つもなくあきれるほどすんなりとボクらを通してくれた。
外へ出たとたん、車のドアを閉めるような音が聞こえた。
「心配すんなって。裏口にいたやつらはさっきのアイツが片付けていったから」
瀬戸さんが口笛でも吹くかのように軽く言ってのける。
「さっきのアイツって…?」
誰を指すか、すぐにはわからなかったけれど、ややもしてボクらの目の前の路地に郵便局と書かれた車が入っていく。
瀬戸さんが小さく手を上げると、車の運転手もまた目だけで合図を送る。
「さっきの配達の人!」
瀬戸さんが「うちの職員」と言った人だ!
「アイツけっこー強いんだぜ?ま、俺には負けるけどな」
腕の筋肉を見せながら、瀬戸さんは白い歯をのぞかせた。
ボクの横にいる神さんが小さく舌打したことには気がついていない。
「バカなことしてねぇで行くぞ」
大きなため息とともに神さんはそういって、そこから50メートルほど歩くと、瀬戸さんに向かって地面を指さした。
「ヘイヘイ。力仕事は俺の仕事ね」
ほんの少し嫌そうな顔をしながらも、瀬戸さんは言われたとおり、地面にある大きなマンホールを両手で持ち上げた。
「毎日ダンベル持ち上げてる俺様に勝てると思ってんのかぁ?ふんぬ…」
なんの掛け声なのかよくはわかならいけれど、しばらく使われてはいないようなその大きなマンホールの蓋は、瀬戸さんの力に負けて、その口を大きく開けることとなった。
持ち上げた蓋にはたくさんの泥や草木が絡みついている。
「ここ使うのって3、4年ぶり、ってとこか?」
瀬戸さんは手にした蓋を穴の横にほうり捨てた。
「いつだったか…記憶がねぇな」
神さんはそういいながらも、なれたようにその穴の中に入っていく。
瀬戸さんに促され、ボクも神さんに続いた。
穴の壁面につけられた梯子で、下まで行くことは容易だったけど、下まで辿り着いたあとが大変だった。
立ち込める嫌なにおい。
腐敗臭とごみの…
「下水道が観光場所となっているパリとは違って日本ではまだまだ整備はされていないからな」
吐きそうになるボクを見て、神さんが小さくつぶやくように教えてくれた。
「パリは地下にもう一つのパリ、下水道のパリを持っている。そこには街路があり、四辻があり、広場があり、袋小路があり、大通りがあり、泥水の往来があり、ないのは人の姿だけである。てか?」
ボクの背後。
梯子を伝い、最後に降りてきた瀬戸さんが勝ち誇ったように小さく笑った。
「ふん。人の文言使って喜んでるんじゃねぇよ」
神さんはふいっと顔をこちらからそらし、スタスタと先に歩いていく。
中は薄暗いため、すぐに神さんの背中が見えなくなってしまった。
「は、早く行きましょう」
ボクは瀬戸さんの腕を取って神さんを追いかけた。
「人の文言て何ですか?」
早歩きで歩きながら、先ほど神さんが言った言葉を瀬戸さんに尋ねてみた。
ボクにはさっぱりわからない。
パリの下水道の話から、なんでこんな展開になるのかよくわからなかった。
「レ・ミゼラブルで、文豪ヴィクトル・ユーゴーの言葉なんだよ。パリ博でたしか、着飾った万国の紳士・淑女が、箱舟で下水見物をしている絵葉書も売ってたとかなんとか聞いたことはあるけどな。俺も聞いただけで見ちゃいねぇよ」
瀬戸さんは特に興味もなさそうに言う。
「それと神さんの不機嫌って…?」
何か関係があるのだろうか?
「さぁ…な」
瀬戸さんは少し含みを持たせたように小さくつぶやく。
「まぁ人間誰しも、人に言いたくないこともあるだろうし、気にしてても仕方ねぇ。おいアオ、もたもたしてっと先行くぞ」
瀬戸さんはボクの背中を景気欲ポンと1つたたくと、いたずらっこのような笑顔を見つめて走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
ボクはその背中を夢中で追いかけた。

「一般的にカマというのは酸化マグネシウムのことをさす。だが…」
神さんはタバコの先の光で、先ほど届けられた「カマ」と書かれた紙を見ながらほんの少し首をかしげた。
「酸化マグネシウム??」
ボクと瀬戸さんはなんのことかわからずポカンと神さんの顔を見つめていると、神さんはあきれたようなめんどくさそうな顔をしながら説明を始めた。
「カマってぇのは酸化マグネシウムの俗称だ。重カマと呼ばれるのが重質酸化マグネシウム。それくらい一般常識だろ」
怒ったような神さんの言葉に、ボクたちは更に目が丸くなる。
一般常識…ではないようなき気が…
「あ、あのさ…ついでに聞くけど、そのナントカマグネシウムってぇのにはどんな作用があるんでしょ?」
瀬戸さんが小さく手を上げ質問すると、神さんは誰が見てもわかるようにいらだった。
「酸化マグネシウムはマグネシウムの酸化物で、化学式 MgO の化合物。白色または灰色の固体。マグネシア、カマ、カマグとも呼ばれる。水酸化マグネシウムあるいは炭酸マグネシウムを600℃程度の低温で焼成してつくったものは、水と反応して水酸化マグネシウムを生じ、二酸化炭素および水を吸収して塩基性炭酸マグネシウム、酸およびアンモニウム塩水溶液に容易く溶けてマグネシウム塩を生成。主に緩下剤として使われる。腸管内で水分の吸収を高める役割を持ち、その結果、腸の蠕動運動を助け、排便を促す。これでわかったか?」
「あ…ハイ…」
ボクと瀬戸さんは目を点にしながら小さく返事をした。
返事はしたものの、実はあまりよくわからない。
ただ神さんに驚いたという言葉があっている。
一体あの人の頭の中はどうなっているんだろう?
「古くからある古典的な薬だ。常用性もほとんどなく安全な薬だといわれている」
神さんはボクが本当はあまり理解できていないのを察知したのか、あきらめたように小さく息をついてタバコに火をつける。
「そんな誰でもわかるような言葉を暗号に使ってくるとは思ねぇな」
白い息を吐きながら、神さんは首をかしげる。
「じゃ、じゃぁやっぱりほら、単純に新宿二丁目のカマバーに行けってことなんじゃねぇの?」
重苦しい空気に耐えかねたように瀬戸さんが少し自虐的に言いのけた。
「そんな単純なことでいいんですか?」
今度はボクが瀬戸さんを冷たい目で見てしまう。
神さんがこと細かに説明してくれたのに、瀬戸さんときたら。
「便秘薬だろ?そんなのが今回の件に絡んでるなんて思えねぇだろが」
なかば八つ当たりのように怒鳴る瀬戸さんに、ボクが肩を落としてしまった。
「おいアオ!てめぇ今オレをバカだと思っただろ?」
いつの間にやら定着してしまったボクの名前、「アオ」に力を込め、瀬戸さんは目を大きく見開いた。