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指 恋

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「あ! 雪!」
 看護士が点滴を取り替えている。その姿越しに、窓の外にちらつく雪に気付いた那由が声を上げた。
「今年最後の雪かな?」
 那由の症状を診察中の長井医師が頷きながらカルテにペンを走らせる。
「積もるかしら?」
「みたいな事言ってたわよ。天気予報で」
 点滴の交換を終えた看護士が微笑む。
「谷川さん、すみません……」
 看護士に指示を出し、長井医師は那由の病室を後にした。
「医師(せんせい)、なんだか、怖い顔……」
 不安そうに声を漏らした那由に、
「新薬があるそうよ。まだ、検証段階なんだけど、それを使えないか、あなたのご両親に聞いてみるって」
「新薬……」
「長井医師ね、あなたと同じ病気で弟さんを亡くしてるの」
 一昨年の夏、眠るように息を引き取った弟の遺体を前に、「間に合わなかった」と泣き崩れたのだと、看護士が話してくれた。
 だからこそ、再び出会ったこの病気から患者を救いたいのだと。
「一昨年の……夏……」
「あら! 那由ちゃんのお姉さんと同じね」
「えぇ……」
 不思議な縁を感じて那由が頷いた瞬間、耳元で携帯が鳴った。
 那由が手を伸ばして、それを開こうとするがままならない。
「はい」
 看護士が慣れた手つきで開いた携帯を那由に渡した。
「ありがとうございます」
 どういたしまして、と会釈をし、看護士も病室を出て行った。
  
  
  
  
  
作品名:指 恋 作家名:竹本 緒