指 恋
震える指でメールを返した。
「でも、もう、ダメかもしれないね」
ベッド脇の姉の写真に問いかける。
元々は姉が始めたメールだった。“王子様”は今も姉と交換しているつもりだろうと思うと胸の奥が苦しくなる。どんなにメルヘンな文面を書いても、自分は姉ではないのだ。姉のフリをしているだけで、“王子様”を騙しているという気持ちが消えなかった。
いっそ全てを告白して、メールを断ち切ろうとも思ったが……出来なかった。今なら、名前も居場所も明かさずにメールを続けていた姉の気持ちが理解できる。何も知らない“王子様”を巻き込んでしまっているのに、この身勝手な恋心が、それを離す事を頑なに拒むのだ。
「私がいなくなったら、お母さんに“さようなら”のメールをお願いしなくちゃ」
勝手に続けているメール交換も、自分が同じ病気になったことで許された気がして……。
「お姉ちゃん。私ね……」
姉の写真にそっと語りかけるのだった。