朧木君の非日常生活(4)
『鳩っておいしいの?』
鬼火ちゃんはそう言っていたじゃないか。
好奇心旺盛な彼女のことだ。
鳩を追ったに違いない。
誘われたんだ、彼女は。
神の使いに。
――神隠しに。
いや、俺がバカだった。
何故止めなかったんだ。
なぜ「食べちゃダメだよ」と言わなかったんだ。
後悔しても遅い。
あまりにも遅い。
「あそこだよ、朧木くん」
蜻蛉さんはそう言い、懐中電灯で右斜め前方を照らした。
そこには一羽の鳩が小さな橋の上を歩いていた。
「これは言っていなかったけどね、橋とか家屋とそういうのも時には、神域へ誘う端境になるんだよ」
――だから
「あの橋を渡れば神域さ」
――そして
「僕たちは神隠しに会うんだよ、朧木くん」
これはもう仮定ではない。
「んじゃ、鬼火ちゃんの元に行こうか、蜻蛉さん」
そう言って俺たちは、一本の橋を渡った。
つづく
作品名:朧木君の非日常生活(4) 作家名:たし