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町内会附浄化役

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 さて、次は浦江の番だ。道の方で歓声が上がり、続いて鳴り響く神楽の音。神楽の音はゆっくりとこちらへ近付いてくる。鳥居のあたりで、さっきよりも大きな歓声がひびく。斎月はゆったりとした気分で浦江の山車が入って来るのを待った。周りではむせ返るような濃い弥無がうずまいていた。人びとの間から立ち上がった祥の姿が見えた。なかなか堂々としたものだ。最高潮に達した興奮は浦江の山車に向かって立ち上り、複雑な弥無のかたまりをえがきだす。
 斎月は突然背筋のあたりから立ち上ってくる悪寒に支配された。なんだか嫌な予感がする。
 一体なぜ?
 心を凝らしてあたりの弥無を探ってみる。あちこちで立ち上る濃い弥無。それら一つ一つを探っていくのは困難だ。しかし、斎月は必死に異質なものを探して心を辺りに放つ。人びとが放つ弥無はほとんどは一定の方向、祥の山車に向かっている。ところがいくつかの弥無はそれぞれ別々の方向に流れたり、あるいはその場に留まっていたりする。そのひとつひとつを探るうち、とても強い、留まる弥無を斎月は発見する。不穏な雰囲気を放つその弥無を斎月はよく知っていた。
「怜子ちゃん」
 鷺州の広い杜の入り口辺りで、佇む怜子の姿を斎月は発見した。きつく結ばれた唇と、強い視線を見て、斎月は次に起こることを瞬時に理解した。
「やめて!」
 怜子の視線の先にはいつみがいた。怜子が手をまっすぐに掲げると、その腕にうずまく弥無がからみつく。黒光りするその弥無は一瞬で凝り固まり、溢れだした。怜子が腕をいつみに向かって突き出す。怜子から流れ出した弥無は周りの濃い弥無をも巻き込みながら、一直線にいつみに向かって飛び出した。間に合わない! 斎月は悲鳴に似た声をあげた。
「だめよ!」
 御幣島の神が咆哮をあげて飛び出すが、あと一歩のところで間に合わない。弥無の塊がいつみを飲み込むかと思われたその時、いつみの体からなにかが飛び出し、弥無にぶつかった。弥無の狙いは逸れて、拝殿の下の地面を大きく抉った。斎月はいつみに走りよりながらも状況が把握できない。
「今のなに?」
「いつみの弥無だ。それより第二波が来るぞ」
 怜子が再び腕を掲げた。
「ぐぉおおお!」
 雄叫びをあげて、祥が神楽から飛び下りた。怜子に走りよりながら叫ぶ。
「乞い願うは奇しき力。去れ、弥無穢れし者! 我が弥無は矛となりその弥無を刺す! お前だけは絶対許さん!」
 祥が放ったするどい弥無は一直線に怜子の腕に向かうが、かすっただけで通り抜けていく。
「あいつ、力み過ぎだ!」
 怜子の腕がまた振りおろされ、矢のようなするどい弥無がいつみに向かって放たれる。
「おねがい、もうこんなの止めて!」
 斎月は何も考えないまま、いつみの前に飛び出していた。
「斎月!」
 いつみの声が耳の中でこだました。体全体で衝撃をくらって、斎月は何がなんだか分からなくなる。意識を保とうと思えば保てるのだけど、眠った方が楽だという誘惑に抗えなくて、斎月は眠るように意識を失った。
「斎月!」
 もう一度呼びかけて体を揺さぶろうとするいつみを御幣島の神が止める。
「やめろ、頭を打っているかもしれない」
 怜子はしばらく呆然と突っ立っていた。
「こいつ! まじでもう許さねえ! この気(いき)は神の気 ケガレを押し崩し 砕きやぶる!」
 祥が叫びながらつっこんで来るのをみて、怜子は我に返った。怜子の周りの弥無が濃密になり、怜子を包み込む。祥が放った弥無は怜子に届くことなく簡単に砕け散る。怜子はそのままきびすを返し、走り出した。
「まてこら!」
 すさましい剣幕で走り出そうとする祥を、いつみが呼び止める。
「やめなさい、祥」
「そうだ、やめとけ。今のお前は弥無を正しく使えていない。お前に加担したくない」
 浦江の神が冷静につぶやいた。
「だけど、あいつ行っちまうぜ。いいのかよ」
 祥がそう言うと、いつみの唇のはしがきゅっと吊り上がった。
「あの女がどこに逃げようと、私からは逃れられないわよ。見てなさい」
 静かにそう言って立ち上がったいつみの立ち姿には説明しがたい迫力があって、祥は一気に頭が冷えた。

作品名:町内会附浄化役 作家名:つばな