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The Over The Paradise Peak...

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 さらに世界情勢が本格的に悪化を始めて以来、枢軸も連合も、自国の兵器体系を凄まじい勢いで刷新していったが、余剰兵器の処分先はアフリカであり東南アジアであり、そしてここ、中米や南米諸国であった。
 この地域には、大量の中古・新古兵器が溢れていたのだ。

 一九世紀からの悲願である中米連合や中米連邦、中米合衆国などといった、中米統一の夢も未だ各国中枢でくすぶり続けていたし、国境地帯に根を張る国際的な麻薬カルテルの勢力は、既に国家規模にまで膨れ上がっていた。
 ブラジルに比べて経済的な行き詰まりを見せていた中米諸国では、何時何処でどんな形で戦の炎が上がってもおかしくなかったのである。

 まして多くの民衆が貧困に喘いでいる中米諸国を、辛うじて、実際ギリギリで庇護していた形の米国及び枢軸諸国が、連合諸国との全面戦争に入ってしまったのである。
 後は何処で戦火が上がるか時間の問題であり、そうなれば中米の市場を虎視眈々と狙っていたブラジルが指をくわえて見ているはずがないのだ。

「南米でも戦争が起こるって事?」
「枢軸と連合の戦争がどうなるかにもよるけどね?」

 と、突然口を挟んで来たのは篠原だった。

「だから見たら――ってわからないか、コロンビアの国軍兵士達の装備は、ほとんど全部二〇年前の米軍装備、そしてあれは米国の海兵隊が使っていたものと同じなんだよ」

 そうなのだ、正樹は自分の感じた不安の一端がなんだったのか、自分でもうまく説明出来ないでいたのだが……。

「意味がわからないわ?」

 だからなんなのか、と、全身で訴える久美。
 
「つまり、コロンビアの国軍は昔の米国と同じ様な運用をされている。そしてあそこに見えている様な装備は緊急展開用の兵器なんだ。つまりいざ有事の際に、いち早く戦場の最前線に展開し、後方から主力が到着するまでそこを維持する――」

 流石にわかったらしい。
 少し顔色を変えている久美。

「――それ、戦場って!」
「うん、多分ここで戦闘になるって判断してるんじゃないかなって――どう思います?」

 と、篠原のあとをついで答えた正樹の言葉に、一瞬口ごもる篠原だったが、心配そうに呟くとロビーの外に目を向ける。そこには続々とやってくる完全武装のコロンビア国軍兵士達。

「ここは、ブラジルとも近いからね……武装勢力もいるし、麻薬カルテルの力も侮れないし……」
「なんにしてもここ、ちょっとヤバくないです?」

 正樹はロビーの大きな、眺めの良いガラス面を見ながら立ち上がる。

「近くで爆発でもあったら悲惨な事になりますよ?」

 爆風で一番怖いのはこうしたガラス片なのだと、正樹も久美も、時折学校で行われていた戦時避難訓練の際に、繰り返し教え込まれていたのだ。
 当然篠原もそうした情報には事ある毎に接していたし、政府の広報等では明るい女性アナウンサーのナレーションで、『ミサイルや爆撃の警報を聞いたら、即座にそうしたものから離れ、地下や近くの避難所へ移動しましょう。そうした物が見つからない場合は速やかに頑丈な遮蔽物を探して……』などという台詞を耳にしていた。
 
 複数の国内国家を抱え、枢軸と連合の最前線という場所に暮らしている日本人にとって、そうした情報はある意味当たり前の常識であったのだ。

「確かに。伊丹さんに相談してこよう」

 伊丹の元へ向かう篠原と、窓から見える兵士や兵器を見比べながら、不安気な声で尋ねる久美。

「ねぇ、本当にここで戦争になるの?」

 久美の質問は当然だったが、正樹にはなんとも言えない。
 コロンビア政府が戦争を仕掛けるとしたら、恐らく北のはずだ。コロンビア政府にとって、パナマこそ、なんとしても手に入れたい土地であるはずだった。
 では逆に仕掛けられるとしたら……?

「わからないよ、ベネズエラもブラジルも、どっちともこの国とそれほど仲は悪くなかった気がするし?」

 やっぱり武装勢力か、麻薬組織かな?

 つい一〇年ほど前までであれば、麻薬組織と正規軍との装備は、圧倒的に正規軍優位にあったのだが、最近の麻薬組織は多脚砲台やら装甲歩兵やらまで装備しているという。
 下手に手をだせば、痛い目にあうのは正規軍だった。世界中の余剰兵器が集まる中南米諸国では、麻薬組織の実力はそれほどまでに肥大化していたのである。

「……日本に帰りたいな」

 その一言に込められた思いに、一瞬胸がいっぱいになってしまう。

「うん」

 正樹の脳裏に、毎日眺めていた“夢の国”の景色が浮かんで消えた。
 
 東西線の架橋、高速道路、観覧車にお城となんとかマウンテン、スケートボードで遊んだ近所の公園、それから、時折感じた、懐かしい潮の香り……。

 なんとも思ってなかったのに、そんななんでもない全ての景色が、懐かしくて堪らなくなる。

「なに? なにが可笑しいの?」

 どうやら正樹は知らないうちに笑ってしまっていたらしい。
 怒りすら含んだ訝しげな様子の久美に、慌てて弁解する正樹。

「ウチの窓からさ、ほら、浦安の“夢の国”が見えるんだけどさ、日本って言われて思い出したのがアレだったから――」

 突然空港の敷地の奥に広がる森に、小さく閃光と火炎が上がり、黒煙が幾つか上がっているのが目に入る。
 と、次の瞬間ビリビリとロビーの窓が震えて、低く響いて来るドロドロいう音が遠くで連続した爆発があった事を告げる。

「――うそっ!」