The Over The Paradise Peak...
BVR 07 CASE “MARCO”
滑走路脇の空き地を掘り下げ、掘った土を周囲に盛り、二門の支援火器(20㍉、M2)を配置したただけの簡単な陣地。
中央には三両の陸戦兵器が並んで止められている。
一両は懐かしの米国製歩兵戦闘車両、所謂M2A3ブラッドレーというやつだが、武装は更新され、六連装多目的ミサイル発射筒を標準で装備している。外観はM6に近い。
もう一両は主兵装に近接防御兵装としても使用可能な、長砲身バルカン砲(30㍉90口径)を備えた、米国GDALS(General Dynamics Advanced Land Systems)社製の大ベストセラー、『軍曹(Sergeant)』の名前で親しまれる、最新型の『York』装輪/ホバー式装甲車両(水陸両用)である。
その二両に半ば挟まれるようにして停車しているのは、GE製の戦術戦闘指揮車両だ。
狭いが戦闘指揮所として使える車体後部に数人の男達がすしずめになっている。
マルコ・ミゲイラ陸軍大佐と副官のポルコ大尉、更に数人の士官と各種情報通信機器を扱う兵士達である。
それぞれの場所から、深刻な面持ちで戦域情報の映し出された壁面モニタを注視している。
ミゲイラ大佐の部隊は、滑走路脇に対空兵器(対空砲×4、短SAM×9)や自走榴弾砲(120㍉×8)――全て自走兵器である――を並べ、普通の歩兵としては限界に近い重装備の兵士達と、所謂歩兵戦闘車両と呼ばれるブラッドレー等の装甲車両二八両(二個中隊)を、三〇メートル程先の森の中に展開させている。
予備の本部中隊にはMBT(M1A2)五両も配属されているし、更に対空・火力陣地及び空港各所に五個小隊、補給・輸送の支援部隊として、一個中隊が街道沿いの牧場に展開した、五〇台以上のトラックや装甲輸送車の警備についていた。
のだが……。
「――航空支援は、二次攻撃はどうなっている!」
「要請はしてありますが……」
完全に押されている。
「くそ、アーマーがいるなんて聞いてないぞ!」
旧式――とは言え中米諸国では最新鋭の――増強機械化歩兵大隊の虎の子、二機のロングボウ・アパッチ(AH-64D)をあっさり落とされ(一機は退避中に墜落)いきり立っているミゲイラ大佐。
「情報部の連中は何をしてたんだ!」
喚いている間にも次々に指示が飛び、前線からの悲鳴の様な報告が続々と入ってくる。
砲撃は小口径だが着発信管ではなく、時限式なのかなんなのか、空中爆発式で大量の焼夷榴弾をばら撒き、時間的にまともな塹壕も蛸壺も準備できなかった、コロンビア国軍の陸軍兵士達を蹂躙している。
「右翼は圧力が低い、今の内に退かせろ!」
バイタルモニタのリストは、既に二割近くがただの一本線に変わり果て、激戦の模様を伝えている。
不意に副官のポルコ大尉が訝しげな声をあげる。
「大佐……砲撃が、止みました」
となると弾切れや陣地転換の可能性はあるが……。
「突入してくるぞ!」
間違いないだろう。叩き上げの陸戦将校に相応しい的確な判断である。
「機動予備を正面へ!」
が、それも全く間に合わない。戦術情報画面の各所に敵歩兵を表すマーカーが大量に出現し、今しも大佐の歩兵達と接触しようとしていた。
「動きが速い! 間に合いません!」
作品名:The Over The Paradise Peak... 作家名:海松房千尋