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雨の記憶

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『見つけたっ!』
 ――― 春の陽射しが眩しい午後。その太陽の光に紛れるように、一筋の小さな光が地上に舞い降りた。
  
 ざわめく教室。入学式を終えたばかりの教室に、新入生の声が賑やかに響いている。出身中学が同じ者同士でくっついていたり、出席番号の前後で話が合って盛り上がっていたり。新生活のスタートはなかなか居心地が良かった。
「ねぇ。ねぇ。ねぇ!」
 貴人(たかひと)の前の席の茶髪の少年が、振向きざまに笑顔を向けてくる。
「……何?」
 あまりの愛想の良さとその勢いに怯む貴人。だが、少年は気にも留めない。
「武内、くん、だっけ?」
 貴人の名札を見ながら、少年が言う。
「出身、何中?」
「南中だけど……」
 貴人の無愛想な答えに、
「えぇっ!?」
 少年がとてつもなく驚いた。
「マジッ!? 遠くない?」
 確かに少し遠いのだが、受け入れ範囲指定のない公立校だから、同じ中学の出身者がいなくもなくも……ない。
「オレ、城南中なんだっ!」
 “城南中”……? 聞いた事がない。
「んとね、○×市の……」
 ○×市って、隣の……。
「お前の方が遠いじゃん!!」
 驚く貴人に、
「そーぉ?」
 少年が首を傾げる。
「バスで一本だよ、ここまで」
 ペロッと舌を出して、サラリと言ってのける。
「武内くん、バス? チャリ通?」
「チャリ通」
「……そっかぁ……。オレもチャリ通にしよっかな……」
 会話の展開が掴めない貴人の頭の中に“?”が飛び交う。
「なんで?」
「だって、方向一緒じゃん! チャリだと一緒に帰れるっしょ?」
 今さっき、初めて話をした二人。それが行き成り“一緒に帰る”方向へと流れる理由が分からない。
「なんで“一緒に帰る”わけ?」
「方向、一緒なんだもん」
 当たり前のように笑顔を向けてくる。
「一人より二人の方が楽しいじゃん。オレ、高橋祐斗(たかはしひろと)」
「高橋、くん……」
「祐斗でいいよ。よろしくねっ。んーと……貴人」
 あれよあれよと少年のペースに巻き込まれ、高校初日が終わった。

  
「貴人! ご飯よ!」
 キッチンからの母の声に、
「はーい!」
 と大きく返事を返して、教科書に名前を記入していた手を止めて母の元へと向かう。
「学校、どうだった?」
 母一人子一人の母子家庭。小さなアパートで暮らしていくのが精一杯の毎日である。
作品名:雨の記憶 作家名:竹本 緒