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夏 光一郎
夏 光一郎
novelistID. 14184
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ドンキホーテと風車

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 午前八時半。日本レンタカーで車を借り、予定通り出発。国道九十一号線を北上、豊北町を目指すが、どうも十二時半の電車に間に合いそうもない。思ったより時間がかかりそうだ。そこで、豊浦町の豊浦ウインドファームに切り替え、漁港湯玉から少し北へ行ったところ、大河内温泉方面へ右折。十分ほど走ると、目的の風車郡が見えてくる。このウインドファームは九十一号線から右手に見える。大河内温泉の集落の裏山の尾根に五基の風車が建設されている。至近距離だ。その奥にも民家が二軒ある。しかし肝心のウインドファームは、鉄城門に鍵がかけられ、立ち入り禁止。写真のような案内板がかけられている。経営母体は、日立エンジニアリング・アンド・サービス。ナビに道路が表示されないところから、発電所建設のために道路を作ったのだろう。全く孤立した風力発電所だ。発電所の入り口のところにある民家が、リサイクルショップを経営しており、「名物風車ラーメン」の看板を掲げているがなぜか空しさを覚える。
 (ドンキ・ホーテの華々しいデビューの旅でした)


中国・塩の都塩城へ

いきさつ

 二〇一〇年六月、私は博士論文を提出し、自由の身の上になったことで、次になすべきことを模索中だった。とはいえ、博士論文を本にする仕事が残っており、見積もりや最終原稿の作成に忙殺されていた。そんなある日、一通のメールを受け取った。この春に大学院を修了し中国へ帰国した彭力(ホウリキ)君からだった。メールの内容はこのようなものだった。

「瀬川先生
 久しぶりです。今年卒業した院生彭力(ホウリキ)です。先生はまだお元気ですか。その前に、先生の授業を受けて、いろいろ教えて頂きました、ありがとうございます。私は今中国江蘇省塩城市経済開発区管理委員会で働いてます。塩城経済開発区の概況は添付で送りますから、よければご覧でください。塩城は中国東部沿海における自動車産業基地です。近年、新エネー産業は全世界の課題となり、我が開発区も風力発電や新エネー自動車産業を発展しています。特に、新エネー自動車産業は今後の主導産業として計画を立ちます。日本はその方で最も先進です。先生も新エネー産業の専門家だから、宜しければ先生や先生のお知り合いが開発区の産業発展を指導してもらいたいです。その代わりに、我が開発区はある程度の研究経費を提供します。ぜひ先生に宜しくお願い致します。有難うございます。六月十一日
彭 力(ホウ リキ)
塩城経済開発区管理委員会」

平成二十二年度の研究費でどこに行こうかと思案中だったので、この話に乗ることにした。そしてとりあえず、次のようなメールを返した。

「塩城経済開発区管理委員会 彭 力さん
東海学園大学の瀬川です。
九月五〜七日あたりで、上海-塩城を訪問しようと計画しています。開発区には、風力発電の工場はありますか?また見学できますか。近くに風力発電所はありますか?中国語がしゃべれないので、同行してもらうことができますか?管理委員会は訪問してもいいですか。
上海までは飛行機、そこから鉄道でした?
日程はまだ予定なので変わるかもしれません。今、自然エネルギーについて本を出すことになっていていろいろ調査をしたいと思っています。観光もしたいです。」

そのあと何度かメールでやり取りをして、九月四日の塩城訪問となった次第だ。今後書く小説のためにも、塩城を訪問したかった。

 二〇一〇年九月四日、土曜日、晴れ
十時四〇分、予定通り全日空機は中部国際空港を飛び立った。航路は中国地方の上空。やがて先日調査で訪問した山口県湯玉の漁港が見えてくる。九一号線を右折したところにある風力発電所のラインがはっきりと見える。その北にも風力発電機が見えるが、これが豊北のウインドファームだろう。現在執筆中の小説「二度恋した二人」の舞台にと決めた、湯玉漁港が真下に見えるのだ。何か因縁めいたものを感じる。
「私は、空の上から真佐子に手を振った。真佐子は手を振ってくれているだろうか。上空を飛ぶからと、約束したのだから、きっと見上げてくれているだろうと、心の中で手を合わせた。ちょうど同じころ、雅子は上空を見上げて、全日空機に手を振っていた」
本に書く原稿の文章が頭をよぎった。
やがて機は、黄海の上空に差し掛かる。海の中国大陸よりは、長江が運ぶ土砂で黄色に染まっている。ところどころに船が浮かんでいる。このあたりから機は徐々に高度を下げ、浦東空港の滑走路に着陸した。形式ばかりの入国審査を終え出口を出ると、彭 力君の懐かしい顔があった。塩城へ向かう途中上海に立ち寄り、中華料理店に入り昼食を食べた。懐かしい味だった。高速を使い塩城に向かい、ホテルに着いたのはもうすでに7時。ホテルは、開発区内にある塩城迎賓ホテルだ。日本庭園をもつ豪華ホテルだ。中央ホールには塩城市のシンボルである丹頂鶴のモニュメントがある(写真)。

少し休憩して、彭君の案内で街の中心部にある中華レストランへ。そこで彭君の上司にあたる管理委員会副主任(Vice derector)のクー氏等と食事。英語表記で、Daniel Qu。シンガポール大学を出ており、英語はよくしゃべるという。
歓談の中でクー氏が強調したことは、「これからは日本企業の資本とノウハウが必要なこと」だ。しかし、「投資意欲のある日本企業の情報がほとんど入ってこない」ので情報がほしいということであった。開発区は高付加価値の方向でやっていることをしきりに強調していた。

翌九月五日(日)、八時にロビーで待ち合わせて、ホテルのレストランで食事。九時、ホテル発。まず江蘇省鹿・鳥自然保護区の見学。入場は有料で、園内一周の電気自動車に乗り込んで公園の奥へと進んで行く。
かつては鹿が一億頭いたのが二百三十までに減った。それをヨーロッパへもっていったが、生息環境が合わず、数十頭に減った。一九八〇年から一九九〇にかけて保護区になり数が増え千二百までになった。全世界の同じ種類の鹿の三分の二がいる。顔が馬、体が鹿、足が牛、尻尾がろばに似ているという。注意しなければならないことは、大きな声を出したり、笑ったりすることだそうだ。途中ビデオで市価の保護の現状を説明する施設がある。途中竹林がところどころにあるが、その中で子供を産むのだそうだ。
水の塔に登り双眼鏡で鹿を観察。五〜十頭が群れをなしている。この塔は昔、水の配水に使っていたという。塔の登り口には風力発電所が望めると書いてある(写真)。遠く南に風力発電基地が見える。鹿の土産がかわいかったので、土産に買うことにした。鹿一匹十元。三匹親子セットが二十元。
 大豊市に入りウインドファームを見学。六五基の風車を確認。GOLD WINDのマークが見える。これはメーカーだ。タワーには、「中国風電有限公司」とある。あたりは一面養饅池だ。養饅池の監視小屋にも小型の風車がたっている(写真)。スプリンクラーが回転している。左手にもう一つのウインドファームを見る。(注)
近づこうとするが道に迷い、大豊港へでる。車のエンジントラブルで一時半ころダウン。途中でエンジンの調子が悪いと連絡してあったので、すぐに交代の車が来た。遅い昼食を農民が利用する中華料理店で。
作品名:ドンキホーテと風車 作家名:夏 光一郎